写真・文/溝口シュテルツ真帆(在ミュンヘン)

「朝食を食べにいらっしゃい」誰かからそう誘われたら、ちょっと不思議に感じてしまう人が多いかもしれません。でも、ここドイツではそれはごく普通のこと。親族や友人同士で集まって、週末の朝食をゆったりと楽しむのは、彼らにとってとても大切な時間なのです。

ドイツの朝食は、地元産のハムにチーズ、焼き立てのドイツパンが主役。塩気のあるハムやチーズとともに、香り高いバターをたっぷりと塗ってほおばるパンは、何よりのご馳走です。

ドイツの人々が朝食を大切にするのは、昼にボリュームのある肉料理を、午後にこってりとしたケーキなどを食べ、夜は胃を休めるため簡単なものをつまむ程度、というのが伝統的な食のスタイルだから。つまり、朝になればお腹はすっきり。自然と、さあ美味しい朝ごはんを食べましょう、という気持ちになるわけです(ディナーを大事にするお隣フランスやイタリアとは正反対ですね)。

充実した朝食メニューを提供するカフェやレストランが至る所に。写真はミュンヘンの『パルメンハウス』(Schloss Nymphenburg43, 80638 München)

さて、実に1000種類を超すと言われるパンやソーセージ、ハムなど、それぞれが誇る“ご当地品”があるドイツの各地域ですが、朝食の美味しさにかけて飛びぬけているのがミュンヘン。それは名物「白ソーセージ」の存在があるからにほかなりません。

ドイツ語で「ヴァイスブルスト(Weißwurst)」と呼ばれる白ソーセージ。発祥については諸説ありますが、1857年にミュンヘン市内のレストランの店主が考案したという説が有力です。

新鮮な子牛の肉や豚の背脂をなめらかになるまで挽き、卵白と、パセリ、ジンジャー、カルダモンなどのハーブを加え、豚の腸に詰めてさっとゆで上げたら完成。通常加工肉に使用される特殊な塩を使わないことで、なんとも珍しい白色に仕上がるのだといいます。

美味しい白ソーセージを出す店は、いつでも大勢の人でにぎわう。1本2.7€(320円程度)。ミュンヘンの『ヴァイセス ブロイハウス』(Tal7, 80331 München)

白ソーセージは鮮度が命。塩を使わないために傷みがはやいということもありますが、冷蔵技術が発達していなかったころの名残で「白ソーセージに12時の鐘は聞かせてはならない」と、早朝に作られたものをその日の午前中のうちにいただく習慣が残っているのも興味深いところ。レストランによってはその伝統を頑固に守り続け、12時を数分でも過ぎれば注文はストップ! 残念ながら明日の朝までおあずけ、ということになってしまいます。

近隣の肉店に買いに出かけ、自宅キッチンであたためて食卓に並べたり、あるいは贔屓のレストランに出かけたり……みな好き好きに白ソーセージの朝食を楽しんでいます。

レストランの白ソーセージは、冷めてしまわないようにお湯に浮かべられて登場します。地元の人たちにならって、手でつまんで、甘みのあるマスタードをつけ、皮を残し中身を吸い取るようにいただけば、ふわふわとした食感と優しい肉のうまみに誰もが虜に……。

ナイフとフォークを使って皮をきれいにむくのは至難の業。ここは気取らず手を使って。口当たりは軽いものの、3本も食べればすっかり満腹に。

白ソーセージのおともには、南ドイツを代表するパン、プレッツェルと、フルーティーな香りの小麦ビールが定番。「朝からビールとソーセージ」、なんとも幸せではありませんか。一日の英気をしっかりと養える、ミュンヘンの朝ごはんの風景です。

老舗蒸留所がつくる小麦ビール「シュナイダーヴァイセ(SCHNEIDER WEISSE)」は日本でも味わうことが可能。詳しくはこちらをご覧ください>> http://www.showa-boeki.co.jp/schneider-weisse/

以上、ミュンヘンの朝ごはんの定番「白ソーセージ」をご紹介しました。ミュンヘンにいらっしゃる機会があったら、ぜひご賞味あれ!

写真・文/溝口シュテルツ真帆
編集者、エッセイスト。2014年よりドイツ・ミュンヘン在住。自著に『ドイツ夫は牛丼屋の夢を見る』(講談社)。アンソロジー『うっとり、チョコレート』(河出書房新社)が好評発売中。日独間の翻訳出版エージェント業にも携わる。

 

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