「町中華」はすでに日本の郷土料理のひとつといえる。その土地、土地の名産食材や気候風土、独特の食文化によって育まれ、地元民に愛される「町中華」の魅力とは何か。日本各地で進化を続ける名店にて、その真髄を探る。

花街で生まれ、愛され続ける飽きることのない雅な味わい

『盛京亭』の名物だった「八宝絲」693円は、白ネギ、ショウガ、タケノコ、ニンジン、シイタケ、豚肉などを細切りにして炒め冷ましてから出す冷菜。

大きく分けると「二系譜」といわれる京中華。「鳳舞系」(広東料理、京中華の象徴的存在)と並ぶ、もうひとつの系譜が「盛京亭系」だ。花街祇園に北京料理『盛京亭』が開業したのは昭和26 年(1951)。祇園を訪れる旦那衆や芸舞妓の口に合うようにと、ニンニクなど強い香味や油を控えめにした花街好みの中華料理を生み出した。

「うちは、『盛京亭』で長くチーフを務めた父が、支店として任された店。だから品書きも盛京亭譲りのものがほとんどです」と言うのは2代目の佐々木幸司さん。

その後、昭和57年(1982)に独立して『盛華亭』を名乗ることになった。とはいえ、今も支店時代の料理が品書きに並ぶ。香りの強い香辛料は使わず、油も基本は大豆の白絞油(しらしめゆ)を用いる。一般的な中華料理とは一線を画すまろやかな味わいで、上品な薄味を好む京都人を惹きつけてきた。

千切り野菜を炒めて冷ました「八宝絲」の味付けは、塩と日本酒のみ。その日本酒も料理酒ではなく、京都松井酒造の清酒を開業以来使う。多くの客が注文する「五目チャーハン」は、さらっとして軽やかな味。まるでかやくご飯を食べているよう、と評される。

コクが際立つ胡麻餃子の誕生

当初は常連さんの裏メニューだった「胡麻餃子」803円。餡にも炒り胡麻と清酒を加えて風味をたたせる。

そんななか、『盛華亭』が独自で作り出したのが、「胡麻餃子」だ。ラー油なしでコクを出すにはと試行錯誤し、皮に炒り胡麻を練りこんだ。餡の具材は、キャベツとニラ、豚肉だけ。やはり日本酒が加えられている。創業以来の分厚い鉄鍋で表面がカリっとするまで焼き上げ皿に。酢醤油をつけて口に入れると、もちっとした皮の香ばしさと胡麻の風味が広がる。

「『盛京亭』が3年前に閉店してしまったこともあって、その味を懐かしんで、芸舞妓さんやご贔屓さんも足を運んでくださいます」
 
70年以上京都人を魅了してきた雅(みやび)な中華料理は、時代とともに進化しながら継がれている。

「焼売」638円。餡は老舗精肉店『銀閣寺大西』の豚ミンチに玉ネギと調味料を加えただけ。豚肉の旨味が際立つ必食の一品だ。
2代目の佐々木幸司さん。父から継ぐ味わいを繊細に守る。簡素な料理の奥には、手間暇かける下拵えや確かな技術が潜んでいる。
1階は朱塗りの円卓が置かれた板敷き。2階は20名まで入れる座敷。店は銀閣寺近くの住宅街の一角にあり隠れ家的な雰囲気。

盛華亭

京都市左京区浄土寺馬場町39-4
電話:075・751・7833
営業時間:17時~22時
定休日:月曜、第1・第3・第5火曜(ただし祝休日は営業)
交通:市バス浄土寺より徒歩約1分、市バス銀閣寺より徒歩約3分

取材・文/中井シノブ 撮影/伊藤 信

※この記事は『サライ』本誌2025年3月号より転載しました。

サライ2025年3月号は大特集『「ガチ中華」VS「町中華」』

 

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