日本人、特に料理好きから熱狂的に愛される料理のひとつである「アーリオ・オーリオ・エ・ペペロンチーノ」。イタリア料理の原点とも呼ばれ、食材や調理工程はシンプルながら作り手によってその解釈は異なります。乳化はどうする? 茹で汁の塩分濃度は? にんにくはどう処理する? 他の調味料はNG? パスタの太さや種類は? ……とペペロンチーノは知れば知るほどその深みにはまり、迷走してしまい、簡単なはずなのになかなかうまくいかない摩訶不思議な料理なのです。
『俺のペペロンチーノ 鉄人シェフ18人が作る基本&アレンジレシピ』(玄光社)では、落合務シェフをはじめ、名だたるイタリアンの名シェフや、フレンチの鉄人坂井宏行シェフなどイタリアン以外のシェフたちも含めた18人によるペペロンチーノレシピが披露されています。そこで今回は、5回にわたって名シェフたちの「基本のペペロンチーノのレシピ」をご紹介します。本書では、基本のレシピ以外に、シェフたちの独創的なアレンジレシピも紹介されているので、気になった方はぜひ手にとってみてください。
第5回は、日本のイタリアンブームを牽引し、鬼才と呼ばれる山田宏巳シェフの登場です。
●山田宏巳(やまだ・ひろみ)
新潟市の「イタリア軒」、「新宿高野」、虎の門「ハングリータイガー」等に勤務。1980年、東京・青山「ビザビ」の総料理長に就任。1982年からイタリアへ留学し、2年後に帰国。1994年フジテレビの番組『料理の鉄人』に登場し、キャベツ対決で勝利。2000年には沖縄サミットにてイタリア国・アマート首相のプライベート料理を担当。2020年に東京・赤坂に「インフィニートヒロ」をオープン。
インフィニートヒロ(予約サイト)
山田シェフの基本のペペロンチーノ
【材料(1人前)】
・ニンニク……5片
・和パセリ……1本
・水……2L
・塩……25g
・パスタ……100g
・EXVオリーブオイル……40ml
・唐辛子(国産)……小2本
<こだわり食材>
●むー塩
新鮮な伊勢の海水を鎌で炊き、にがりを抜かずに蒸発させた伝統的な製法の海水塩
●DE CECCO
国内でも手に入りやすいイタリアメーカーの高クオリティなパスタ。1.4mmを使用
●LEUM SICILIA ビオ エキストラバージンオリーブオイル
イタリア・シチリア島原産のオーガニックなEXVオリーブオイル
1.刻んだニンニクは、一度水にさらす
3片のニンニクをみじん切りにする。これはトッピング用のニンニク。包丁で芯を取ったら、丁寧に細かくみじん切りに。表面についた余分な糖分(苦味)を取るために、刻んだニンニクはザルに入れ、水洗いした後ボウルを重ねてさっと水にさらす。
Chef’s Comment:みじん切りは均一でなくても大丈夫。それがアクセントになります。
2.しっかりと水分を取る
ザルから上げたらキッチンペーパーで刻んだニンニクを包み、水分をしっかりと取っておく。
3.刻んだニンニクをオリーブオイルで揚げる
フライパンに刻んだニンニクを入れ、ニンニクすべてがつかるくらいのオリーブオイルを入れる(分量外)。唐辛子は半分に割り種を抜いてから入れ、弱火にかける。弱火でじっくり揚げていく。小さめの粒が色づき始めたら、火を止めて少し余熱で火を通す。
4.ニンニクの水分を十分に抜く
フライパンが触れるくらい冷めたら、再び弱火にかける。少し色づいたら火からおろす。これをもう一度繰り返し、全体がうっすらと色づいたら、火を止める。ニンニクの水分がしっかり抜けているが、焦げていない、というのが理想。
Chef’s Comment:弱火にかけ、少ししたら火からおろし余熱で火を通す。これを3回ほど繰り返すことで、ニンニクの水分をしっかり抜くことができる。
5.から揚げされたニンニクをオイルから取り出す
ボウルとザルを使い、ニンニクをオイルから上げる。焦げてしまったニンニクがあれば、取り除いておく。取り分けたオイルは、別の料理に使う。
6.ペペロンチーノのベースを作る
別のフライパンに分量のオリーブオイル、包丁でつぶしたニンニク、唐辛子を入れて弱火にかける。唐辛子は手で割り、中の種を抜いておく。
7.たっぷりのお湯でパスタをゆでる
パスタは1.4mmと細め。パッケージより少し短い、4分30秒間ゆでる(時間はあくまでも目安のため味見をして確かめる)。沸騰した鍋にまとめたパスタをねじるように入れ、さっと手を放し、広げながらゆでていく。少し硬めのアルデンテになっていればOK。
Chef’s Comment:パスタをゆでるお湯はしっかりと塩味をつけます。1~1.3%くらい。味噌汁の塩分を目指すとわかりやすいので、何度も味見をしながら塩を入れています。ここでペペロンチーノの味は決まります。塩はうま味の多い海水塩を使っています。
8.ニンニクが色づいたら火を止める
ニンニクの香りが立ち、色づき始めたら火を止める。そのまま余熱でしっかり中まで火を通す。
9.パセリをみじん切りにする
パセリは軸を外しておく。ギュッと小さくまとめてから刻むと、細かなみじん切りになる。
Chef’s Comment:使っているパセリはイタリアンパセリではなく、国産の和パセリ。手に入りやすく、香りもいい。できるだけ国産のものを使うようにしている。
10.ニンニクと唐辛子を取り出し、パセリを入れる
少し全体がキツネ色になったら、ニンニクと唐辛子を取り出す。刻んだパセリをフライパンに入れ、パセリの香りを立たせるためにサッと火を通す。
11.乳化を意識せず、均一に混ぜていく
レードルでパスタのゆで汁1杯分をフライパンへ入れる。オイルとゆで汁が混ざるよう、フライパンを動かす。あまり乳化を意識せず、フライパンを返しながら均一に混ぜていく。
12.ザルで湯切りしたパスタを入れる
ゆで上がったパスタはザルに上げ、サッと湯切りをしたものをフライパンに入れる。手早くフライパンを返しながら、オイルとパセリをパスタに絡ませる。しっかり混ざったら、皿に盛り付ける。
13.トッピング用のニンニクを振りかける
(5)で作ったから揚げしたみじん切りのニンニクを、上から振りかけるようにトッピングして完成。
※本書では、山田シェフのアレンジレシピとして「フグの白子のクリームペペロンチーノ」を紹介しています。
おいしい物が何も入っていないからこそ
手間をかけて食感を追求したペペロンチーノ
私が最初に心からおいしいと思ったペペロンチーノは、「リストランテ アルポルト」の片岡シェフのペペロンチーノでした。アルポルトがオープンしたてだった当時、一生懸命お金を貯めて行ったお店で「ペペロンチーノとスズキのグリルをください!」と注文したのを、今でもはっきり覚えています。テーブルまで片岡シェフが来て、優しく「はい」と言ってくださいました。そのとき食べたペペロンチーノが本当においしくて。私の大事なペペロンチーノの思い出です。その後片岡シェフと親しくさせていただき、ボンゴレをごちそうになったことがありました。また感動して、その後2年くらいはボンゴレに真剣に向き合っていました。まだ私が22歳くらいのときの話です。ペペロンチーノって、おいしい物が何も入ってないですよね。オリーブオイルとニンニクと唐辛子だけ。だけどおいしいし、それがベースになっている。ボンゴレもベースはペペロンチーノですから。おもしろいですよね。
私のペペロンチーノはから揚げしたニンニクがたくさんトッピングされていますが、このニンニクの食感がいちばんのこだわりです。機械を使わず、手で丁寧にみじん切りすることで、大小さまざまなサイズに刻まれる。揚げるとカリカリっとしたり、カリホクっとしたり、味はもちろんですが食感を楽しむことができるんです。ただこの食感を作り出すには、かなり手間がかかります。今回のレシピでもわかるように、刻んだニンニクを水にさらすことで余分な糖分を取り除く=苦みを取り除き、弱火でじっくりと焦がさないように火を入れたり止めたりと、中から水分だけを抜くように、丁寧にニンニクに付き合います。強い火で揚げると、表面の水分しか抜けません。刻んで小さくなったニンニクでも同じで、強火で揚げると外はカリカリでも中はべちゃっとしてしまう。ペペロンチーノはシンプルなパスタだからこそ、私はこの食感をとても大事にしているのです。
イタリア料理の基本は塩とオリーブオイルで成り立つと思っています。私の料理にはハーブはあまり使っていなくて、肉料理や煮込み料理にナツメグや月桂樹を加えることもしません。確かにいい香りがしますが、その香りが必要でなければ入れなくてもいい。臭みを消したいなら、臭みのない食材や臭みが出ないような下処理をすればいいんです。だんだんと引き算の料理、イタリアンなのに和食みたいになってきちゃいました。ただの焼き魚にオリーブオイルと塩をかけるだけ。これが本当においしいと感じています。だからこそイタリアの食材にもこだわっていなくて、できればいずれはすべて国産の食材でイタリアンを作りたいと考えているんです。今、私は生ハムも作っているのですが、この生ハムはトウキョウXという東京で育てられた豚のお肉で作っています。この生ハムは本当においしくて、イタリアの生ハムを超えたと感じています。日本は魚介も新鮮、バジルの代わりにシソを使ってもいいし、和パセリだってすごくおいしい。あとはオリーブオイルとパルメザンチーズがたくさん生産されるといいですね。すべて国産の材料でイタリアンを作る、これが今の私の夢です。
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俺のペペロンチーノ 鉄人シェフ18人が作る基本&アレンジレシピ
監修/Chef Ropia
登場シェフ/落合 務、小川洋行、奥田政行、小倉知巳、片岡 護、Chef Ropia、神保佳永、鈴木弥平、濱崎龍一、
日髙良実、ファビオ、山田宏巳、山根大助、弓削啓太、大西哲也、関 斉寛、山野辺 仁、坂井宏行
玄光社 2,420円