日本人、特に料理好きから熱狂的に愛される料理のひとつである「アーリオ・オーリオ・エ・ペペロンチーノ」。イタリア料理の原点とも呼ばれ、食材や調理工程はシンプルながら作り手によってその解釈は異なります。乳化はどうする? 茹で汁の塩分濃度は? にんにくはどう処理する? 他の調味料はNG? パスタの太さや種類は? ……とペペロンチーノは知れば知るほどその深みにはまり、迷走してしまい、簡単なはずなのになかなかうまくいかない摩訶不思議な料理なのです。
『俺のペペロンチーノ 鉄人シェフ18人が作る基本&アレンジレシピ』(玄光社)では、落合務シェフをはじめ、名だたるイタリアンの名シェフや、フレンチの鉄人坂井宏行シェフなどイタリアン以外のシェフたちも含めた18人によるペペロンチーノレシピが披露されています。そこで今回は、5回にわたって名シェフたちの「基本のペペロンチーノのレシピ」をご紹介します。本書では、基本のレシピ以外に、シェフたちの独創的なアレンジレシピも紹介されているので、気になった方はぜひ手にとってみてください。
第3回は、イタリア料理協会会長の片岡護シェフの登場です。
●片岡護(かたおか・まもる)
イタリア料理協会会長。1968年に日本領事館付き料理人としてイタリア・ミラノに渡る。約5年間のイタリア生活で食べ歩きをし、ミラノにある「アルポルト」という店に出会い、仕事の合間に研修に行く。日本に帰国後は「小川軒」で修業、「マリーエ」でシェフを務め、1983年に東京・西麻布に「リストランテ アルポルト」をオープン。
リストランテ アルポルト
片岡シェフの基本のペペロンチーノ
【材料(1人前)】
・ニンニク……2片
・イタリアンパセリ……2本
・水……3L
・塩……36g
・パスタ……80g
・EXVオリーブオイル……大さじ2
・唐辛子……1本
・コショウ……少々
<こだわり食材>
●クリスマス島の塩
キリバス共和国の島で作られた塩で、ミネラルなどの栄養分が豊富。まるみのある味と潮の香りが特徴
●DE CECCO
ディ・チェコのフェデリーニは1.4mmと一般的なスパゲッティよりも細く、シンプルなソースとの相性がいい
●ARDOINO エキストラバージンオリーブオイル フルクトゥス
アルドイノ社のEXVオリーブオイルで、フレッシュな香りと味わいが特徴
1.ニンニクはつぶしてから、みじん切りにする
ニンニクを縦半分に切り、焦げやすい芽の部分を取る。端の部分を残して切り込みを入れ、縦に1回切り込みを入れた後、みじん切りにしていく。大きさを揃えるように気をつける。
Chef’s Comment:ニンニクの端を切って、皮をむきます。皮は手のひらで押すとむきやすくなりますよ。ニンニクは、国産はおいしいけど香りが強めなので、エシャロットのような香りがするスペイン産を使っています。
2.イタリアンパセリの葉をみじん切りにする
イタリアンパセリの葉の部分をみじん切りにする。イタリアンパセリのほうがよいが、なければ普通のパセリでもOK。
3.ニンニクのみじん切りをオリーブオイルにひたす
みじん切りしたニンニクを別の器に入れ、酸化を防ぐためオリーブオイルを入れてひたしておく。
4.オリーブオイル、ニンニク、唐辛子を入れて中火にかける
火にかけていないフライパンに、オリーブオイルを入れる。さらにフライパンにニンニク、指で軽くつぶした唐辛子を入れ、中火にかける。均一に火が回るようにフライパンを回しながら菜箸で軽く混ぜ、火が入ってきたら極弱火にする。
5.パスタをゆでる
沸騰したお湯にパスタを入れてゆでる。パスタは1.4mmの細めのものを使用。パスタは時々味見をして、塩味と硬さを確認する。
Chef’s Comment:沸騰したお湯に塩を入れます。一般的なゆで汁は1%ですが、アーリオ・オーリオはソースに塩が入らないので1.2%にします。塩は、できるだけ硬水に近づけるため、イタリアの岩塩を使用しています。パスタのゆで具合の確認は、そのときの状況によって変わるため、指定の時間にとらわれず自分の舌で確認すること。
6.ニンニクは網杓子ですくって取り出す
ニンニクがキツネ色になり香りが出たら、火を止めて網杓子ですくう。
7.ニンニクと唐辛子は油切りを
網杓子ですくったニンニクと唐辛子は、バットに敷いたペーパーナプキンに取り出しておき、余分な油を切る。
8.フライパンにゆで汁を入れ、ソースを作る
ニンニクを取り出したフライパンに、ゆで汁をレードル1杯弱(約30ml)入れて弱火にかけ、沸騰させてソースを作る。続けてイタリアンパセリを1/3量入れ、フライパンを振って手早く混ぜたら、いったん火を止める。
Chef’s Comment:乳化させるというよりも、パスタに絡めるソースを作るイメージで。
9.ゆで上がったパスタをフライパンに入れる
パスタがゆで上がったら、フライパンを再び弱火にかけパスタをフライパンに移し入れる。フライパンを振りながら手早く混ぜ合わせる。水分が飛んで分離していないことを確認して火を止める。
10.コショウとイタリアンパセリを入れる
味見をしたら、コショウと1/3量のイタリアンパセリをかけ入れる。イタリアンパセリはかなりの量が入る。さらによく混ぜ合わせる。
11.盛り付ける
皿に盛り付け、取り分けておいたみじん切りニンニクをかける。さらに取り分けておいた唐辛子、残りのイタリアンパセリをかけたら完成。
Chef’s Comment:みじん切りニンニクはオリーブオイルで火を入れた後に取り分けておくことで、カリカリの食感を出すことができる。
※本書では、片岡シェフのアレンジレシピとして「黒トリュフのペペロンチーノ」を紹介しています。
アーリオ・オーリオはすべてのパスタの基本
これができれば、すべてのパスタが作れるようになる
初めてペペロンチーノを食べたのは、自分で作ったものかな。ペペロンチーノというのはイタリアでは家庭料理だから、レストランなんかで頼んだら怒られますよ、「うちで食え」って(笑)。僕は20歳でイタリアに修業に行って、公邸料理人だったので昼はイタリアン、夜は和食の勉強をしました。そのときに自分でペペロンチーノを作ったのが最初だったけど、総領事からは「まずい」って言われましたね。それで試行錯誤しながらやってきました。アーリオ・オーリオ・エ・ペペロンチーノはいちばん簡単だし、イタリア料理のすべてのベースでもある。だから総領事はあえて「おいしくない。だめ」って言ったんだと思います。
アーリオ・オーリオはすべてのパスタの基本、だからアーリオ・オーリオのパスタができるようになれば、だいたいのパスタは作れるようになるんですよ。ただ、人によってつなぐ(乳化する)のかつながないのか。ちゃんとつないでオイリーっぽいのが食べやすいという人、乳化するのはおかしいっていう人。それはそれぞれの人の好み、性格ですから、それぞれでいいんじゃないですかね。食べておいしいって感じれば、どっちだっていいんだよ(笑)。
ペペロンチーノに乳化のためのゆで汁を入れるか入れないか、僕はそのときの感覚でやってます。塩分濃度が1.2%のときはゆで汁を加えなくてもいいし、加えるとしても少量。塩辛くなっちゃうから。0.8%だったら水分足して、オリーブオイルも入れてもっと乳化させてたかな。だからそのときによって頭でパッパッパって考えて変えています。そこを素早く考えて変えるのがプロですよ。
今回のアレンジレシピは黒トリュフを使いましたけど、あくまで「アーリオ・オーリオ・エ~」ということで、アーリオ・オーリオのよさを殺さないようなソースにしなきゃいけない。でもアーリオ・オーリオはどんな食材でも合うんですよ。日本の食材でも塩辛やカラスミ、タラコなんかを合わせてもおいしい。この間は、福井のへしこを漬けたぬかを乾燥させた「へしこパウダー」でスパゲッティを作ったけど、みんな「こんなおいしいんだ!」って喜んでもらえました。だから日本の食材でもアーリオ・オーリオに合う食材ってたくさんある。
アーリオ・オーリオで使うニンニクは、僕はスペイン産のものを使います。国産は香りが強いから使わない。どうしてかというと、アーリオ・オーリオではどうしてもニンニクを食べるじゃないですか。そうすると食後にみんな臭っちゃうでしょ。でもスペインとかイタリアとかヨーロッパ産のものは、ちょっとエシャロットっぽいんですよ。香りが全然違う。
ニンニクにはアリシンという香りの成分が入っているんだけど、アーリオ・オーリオではキツネ色になるまでよーく炒めて香りを出す。そうするとうま味成分に変わるんですよ。でもまだ少し臭いが残っている、その臭いを消すためにパセリを入れるんです。パセリというのは消臭作用が強いんですよ。あとエスプレッソコーヒーにも消臭作用がある。だからイタリアンはパセリとエスプレッソを使うことによって、ニンニクをたくさん使っても香りの中和をしてくれるんです。
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俺のペペロンチーノ 鉄人シェフ18人が作る基本&アレンジレシピ
監修/Chef Ropia
登場シェフ/落合 務、小川洋行、奥田政行、小倉知巳、片岡 護、Chef Ropia、神保佳永、鈴木弥平、濱崎龍一、
日髙良実、ファビオ、山田宏巳、山根大助、弓削啓太、大西哲也、関 斉寛、山野辺 仁、坂井宏行
玄光社 2,420円