全国のりんご生産量の約6割を占める青森県中南部地域。なかでもとくに収穫が多い中心地・弘前で「アップルパイ」に関わる農園を訪ねました。
真摯にりんごを育てる農園のルビー色のりんご煮が際立つ
青森県は全国のりんご生産量の約6割(43.9万トン、令和4年度)を占める。弘前市を中心とする県の中南部地域がその中心地で、弘前だけで全国の3割近くのりんごが収穫される。弘前ではりんごが暮らしに根付いていて、毎月5日は市の条例で「りんごを食べる日」とされている。町には、りんごの形をしたカーブミラーやポストなど、そこかしこに“りんごへの愛情”が見てとれる。
そんな、弘前のりんご愛を象徴するひとつがアップルパイだ。現在、アップルパイを提供する店は市内に50店舗近くあり、洋菓子店や喫茶店のほか、和菓子店や煎餅店などでも焼かれている。りんごの町・弘前で、各店が工夫を凝らしたアップルパイを味わってみたい。
最初に向かったのは、弘前市りんご公園。敷地内に80品種ものりんごの木が約2300本も植えられ、栽培のようすや数多くの品種が間近に見られる。8月から11月は収穫体験もできる(有料)。アップルパイをいただく前に、全国でも珍しいりんごに特化した公園で、まずはりんごの基礎知識を学んでおきたい。
季節ごとにりんごとふれ合い、親しめる公園
弘前市りんご公園は、津軽富士と呼ばれる岩木山さんを望む、郊外の高台に広がる。開園は昭和40年(1965)、約9.7ヘクタール(東京ドーム約2個分)の土地に「国光」「紅玉」「祝(いわい)」といった明治時代から続く品種から、主力品種の「ふじ」まで80種、約2300本が育成されている。
園内には収穫体験ができる農園を始め「りんごの家」では、売店や軽食コーナーなどが設けられている。りんごの歴史を学び、体験し、おいしく食べられるりんごの総合施設だ。
弘前市りんご公園
青森県弘前市大字清水富田字寺沢125
電話:0172・36・7439
開園時間:園内自由、施設利用は9時〜17時
定休日:無休
交通:JR弘前駅6番より弘南バス西目屋村役場/相馬行き常盤坂入口下車徒歩約8分
鮮度を感じるアップルパイ
『タムラファーム』は、りんごの生産からアップルパイやシードル(りんごの発泡酒)などの加工食品の製造まで手がける生産者兼メーカーである。充分な採光を得るため樹間を広くし、自家製の有機肥料を使うなど、健康的な環境維持に努め、弘前りんごのブランド価値を高める役割を果たしてきた。
鮮度を維持するため摂氏0度に保たれた保管庫には、アップルパイに使う紅玉が積まれている。紅玉の生産は減少しているが、当園は津軽地方で随一の広さを誇る紅玉のりんご園を有し、アップルパイなどの加工用に使う。保管庫に隣接するキッチンでは、家庭用コンロで紅玉のコンポート(砂糖煮)を手づくりしている。使われているのは家庭用の26cm径のフライパンだ。大量生産はせず、シーズン中に穫れたての紅玉がなくなれば加工は終わる。同社専務の田村昌丈さん(40歳)はこう語る。
「紅玉は濃縮された甘みと酸味があり、パイ生地との相性が抜群です。煮崩れが起きにくく、りんごのおいしさをしっかり味わえます」
バターが香るパイ生地に包まれたコンポートは、甘過ぎずほどよい酸味でサクサクとした食感とよく合う。紅玉の味を活かすため、シナモンは使わない。アップルパイもりんごの産地で食べると、鮮度が違うことを実感する。
タムラファーム
青森県弘前市青樹町18-28
電話:0172・88・3836
営業時間:8時30分〜17時
定休日:日曜、祝日、お盆、年末年始
交通:JR弘前駅8番より弘南バス旧桜ヶ丘案内所行き青樹町下車徒歩約1分
※アップルパイは弘前市りんご公園、青森空港などでも販売。通販あり。
※この記事は『サライ』本誌2023年11月号より転載しました。