文・写真/中村暁
よく「名物に旨いものなし」と言われる。だが今回ご紹介する鞍馬名物の「木の芽煮」(きのめだき)は、そんな定説をくつがえす伝統のお総菜である。山椒好き、昆布好きで知られる多くの京都人が常備菜としている、とても馴染み深いひと品だ。
鞍馬山・由岐神社の門前に店を構える廣庭商店は、木の芽煮では京都でも一、二を争う歴史を持つ老舗である。「元祖 木の芽煮」を名乗る明治16年創業の老舗で、現在は廣庭良郎さんが6代目をつとめている。
山で採れる山椒と、海で採れる昆布とを合わせて作る「木の芽煮」は、京都でよくいわれる“山海の出会いもん”の傑作。鞍馬に近い伊吹山山麓で採れた実山椒と、京都で一番使われる利尻昆布を使い、これを初代からの伝統の技で炊き上げていく。火加減や冷ます時間を気温、湿度等によって調整しながら、山椒の香りと昆布のうまみを引出していくのだ。
創業当初からの竈で、大きな釜で炊くことによって、まろやかで滋味深い味に仕上がるという。出来上がるまでに三日がかりという、昔ながらのやり方だ。
化学調味料、保存料など一切使ってないので安心して頂ける。保存料無添加の木の芽煮は、今や京都でも貴重な存在となっている。とはいえ日持ちがよいので、常備しておいて、お茶漬けやおにぎりにするのが一番のおすすめだ。
そして廣庭商店さんのお総菜でもうひとつ、この秋にお勧めなのが「しめじしぐれ」。しめじだけを炊き上げた珍しい佃煮で、甘辛い味が癖になる。そのままご飯のお供にしてもよいが、これを使って炊き込みご飯にして、秋の味覚を大いに愉しむのも一興だ。
深まりゆく秋、紅葉の鞍馬山へ、京都伝統の味を求めて出掛けてはいかがだろうか?
【京くらま廣庭】
■京都市左京区鞍馬本町239
■TEL:075-741-2027
■FAX:075-741-2953
■営業時間 : 9:00~17:00
■定休日:なし(年中無休)
http://www.hironiwa.co.jp/
文/中村 暁
日本文化プロデューサー。1955年、京都生まれ。伝統芸能をはじめ日本文化を様々な切り口からプロデュースする。日本の食文化についても興味が深く、素材を求めて生産者まで足を運び、自ら台所に立つことも多い。暮らしのスタイルは季節を感じて日本人らしくがモットー。