文/堀けいこ
いつの時代にも、作曲家たちは新たなインスピレーションを求めて旅をした。そんな、旅から生まれた数々の音楽(ものがたり)を、華やかな“音楽の祭典”で楽しみたい。
旅の目的は人それぞれ。絶景との出会い、史跡めぐり、美術館めぐり、食べ歩き、と楽しみは様々に広がる。そんな中、海外旅行の目的のひとつとして人気が高まっているのが、クラシックのコンサートや音楽祭を楽しむツアーだ。
ヨーロッパの場合、都市のコンサート・ホールを中心にした音楽シーズンは、たいてい9月に始まり、夏前の6月に終わる。つまり、夏の間はシーズン・オフ。劇場は閉まっていて、通常の公演が行われていないことが多い。そんなオフの時期をつかって、今度は避暑地などで多くの音楽際が開かれることになる。「音楽祭/ツアー」をキーワードに検索をすると、ヨーロッパ各地での音楽祭に行くツアーが6月から8月にかけて、ずらりと並ぶ。そのスケジュール一覧を見ているだけでも、クラシック音楽好きはわくわくするに違いない。
そんなわくわく感を、日本にいながらにして満たすことのできるイヴェントがある。それが、ゴールデンウィーク期間中に東京で開かれる「ラ・フォル・ジュルネ TOKYO 2019」。足繁くコンサートに通う人はもちろんだが、むしろ、しばらくクラシックをライヴで聴いていないという人や、クラシックは敷居が高くてと尻込みする人こそ、ぜひとも足を運びたい音楽祭だ。
「ラ・フォル・ジュルネ」は、音楽プロデューサーのルネ・マルタンが、1995年にフランス西部の港町ナントでたちあげた。その後、2000年からはポルトガルのリスボン、02年からはスペインのビルバオ、そして05年からは東京と、国境を越えて世界各地で開催されてきている。08年には金沢とブラジルのリオデジャネイロでも開かれた。
ゴールデンウィークの時期に東京で開催されてきた「ラ・フォル・ジュルネ TOKYO」の来場者数は、2018年までで延べ823万人。その約6割をクラシック・コンサート初体験者が占めている。もともとのコンセプトが、「敷居が高いクラシック音楽をカジュアルに楽しもう」というもので、その狙いが的中しているわけだ。
最大の特徴は、1公演45分のコンサートが、有楽町の東京国際フォーラムにある全6会場で同時進行的に繰り広げられること。しかも有料公演の入場料は1500円から3500円と低価格。演奏者には、ビッグネームから旬の若手までが並ぶ。そのから、好きな演者・演目を選びながら、朝から夜までクラシック音楽三昧。これは楽しい。
毎年、ルネ・マルタンによって魅力的なテーマが掲げられるのだが、今年のテーマは『ボヤージュ 旅から生まれた音楽(ものがたり)』。これに沿って選ばれた作曲家は、例えば、ヨーロッパ中を旅し、数多くの名作を遺したコスモポリタンな作曲家、モーツァルト。無類の旅好きで、とくに東洋に魅せられたというサン=サーンス。海軍に在籍し、自身も船乗りであったリムスキー=コルサコフ。この3人に代表されるように、いつの時代にも作曲家たちは新たなインスピレーションを求めて異国の地を目指し、異文化から吸収したさまざまな刺激を自分たちの創作に取り入れた。多彩なプログラムの中には、そんな作曲家たちの旅の軌跡を紹介する公演もラインナップされているから、これは楽しみだ。
ところで、なぜ毎年ゴールデンウィーク中の開催なのか。そのわけをマルタン氏は、茂木健一郎氏との対談でこう語っている。
「ゴールデンウィークに開催時期を決めたのは、第一に、この音楽祭が大衆的なものだということ。そして、家族揃って行けることを大事にしたかったということです。東京で年中オペラやコンサートに行くようなお金持ちの方は、ゴールデンウィークにはウィーンとかへいらっしゃるでしょう?そうでない人たちにとって、ラ・フォル・ジュルネはすばらしいイベントなのではないでしょうか」(茂木健一郎・著『すべては音楽から生まれる』PHP研究所より)
今年のゴールデンウィークは、「ラ・フォル・ジュルネ TOKYO 2019」でコンサートのはしごをして、いくつもの土地や国を旅した気分になろう。
「ラ・フォル・ジュルネ TOKYO 2019」おすすめ公演情報
●実力派歌手たちの迫力の演奏をたっぷり味わうディーヴァ・オペラ
ディーヴァ・オペラはイギリス屈指の室内オペラ・カンパニーで、2006年のLFJで来日した際の公演は即完売したほどの人気公演。ピアノ伴奏でモーツァルト《後宮からの誘拐》を丸々お届けする! そしてLFJならではのお得な価格。オペラは長くて難しい…と思っている人たちにこそ、扉を開きたいと思っているディーヴァ・オペラ。オペラ好きのあなたも、オペラは初めて、という人にもおすすめの公演だ。
https://www.lfj.jp/lfj_2019/performance/timetable/detail/127_modal.html
https://www.lfj.jp/lfj_2019/performance/timetable/detail/227_modal.html
https://www.lfj.jp/lfj_2019/performance/timetable/detail/326_modal.html
●公演番号:213 アブデル・ラーマン・エル=バシャ×タタルスタン国立交響楽団×アレクサンドル・スラドコフスキー(指揮)
生涯に27か国を旅した旅のエキスパート、サン=サーンス。彼が愛した北アフリカの情景を音楽を通して旅することができる。ピアノ協奏曲のソリストを務めるのは、人気のベテランピアニスト、アブデル・ラーマン・エル=バシャ。円熟の演奏を心ゆくまで堪能したい。
https://www.lfj.jp/lfj_2019/performance/timetable/detail/213_modal.html
●ルネ・マルタン一押しの若手音楽家が活躍!
・公演番号:214 アレクサンダー・ガジェヴ(ピアノ)×ウラル・フィルハーモニー・ユース管弦楽団×エンへ(指揮)
アレクサンダー・ガジェヴは、小説「蜜蜂と遠雷」に登場する芳ヶ江国際ピアノコンクールのモデルとなった浜松国際ピアノコンクールで優勝したピアニスト。この公演で演奏するプロコフィエフのピアノ協奏曲第3番は、まさにガジェヴが優勝を決めたコンクール本選で弾いた曲。小説の中に出てくる演奏さながらの熱演をお楽しみに!
https://www.lfj.jp/lfj_2019/performance/timetable/detail/214_modal.html
・公演番号:141 ディアナ・ティシチェンコ(ヴァイオリン)×神奈川フィルハーモニー管弦楽団×三ツ橋敬子(指揮)
この公演では、【スペイン】をテーマに、明るく華やかなワルツ「スペイン」とエキゾチックな魅力の「スペイン交響曲」を聴くことができる。美貌と才能を兼ね備えたヴァイオリニストと、Newsweek Japan「世界が尊敬する日本人100人」にも選ばれた女性指揮者の三ツ橋敬子の、パワフルな女性の魅力溢れる公演という点でも注目だ。
https://www.lfj.jp/lfj_2019/performance/timetable/detail/141_modal.html
●公演番号:314 ウラル・フィルハーモニー・ユース管弦楽団
ウラル・フィルハーモニー・ユース管弦楽団は、今回初来日の平均年齢22歳のフレッシュなオーケストラ。演奏するのは、自身も海軍士官だったリムスキー=コルサコフの交響組曲「シェエラザード」です。千夜一夜物語をテーマにしたドラマチックな音楽にたっぷり浸りたい。
https://www.lfj.jp/lfj_2019/performance/timetable/detail/314_modal.html
●音楽祭を豪華に締めくくるファイナルコンサート
本音楽祭を締めくくる、その年のテーマがぎゅっと凝縮した公演がファイナルコンサート。今年は、クレズマーやロマ音楽のシルバ・オクテットの演奏から始まり、今年の音楽祭を代表するソリスト達とオーケストラの豪華共演で異国情緒溢れる曲が次々と! 90分公演でS席3,000円というお得な公演でもある。このコンサートで心踊る”祭典”を締めくくりたい!
https://www.lfj.jp/lfj_2019/performance/timetable/detail/316_modal.html
公演のスケジュールや内容の詳細、チケット情報などは、
「ラ・フォル・ジュルネ TOKYO 2019」公式サイトまで https://www.lfj.jp
文/堀けいこ