マネジメント課題解決のためのメディアプラットホーム「識学総研(https://souken.shikigaku.jp)」が、ビジネスの最前線の問題を解説するシリーズ。今回は、責任の所在が不明確なために部門間で起こる問題について取り上げます。

はじめに

近年、国内企業での社内不正やガバナンスの欠如が深刻化しています。その要因の一つとして、部門間の責任の曖昧さが指摘されており、これが企業全体の信頼性を揺るがす結果となっています。多くの場合、この問題に対しては「強すぎるトップダウンの指導」が原因とされ、経営トップの姿勢が批判されます。しかし、こうした批判には具体的な解決策が欠けており、単なる非難に終始する傾向が見受けられます。

そこで、今回のテーマでは、この問題を未然に防ぐための具体的な方法について考察していきます。

部門間の責任問題が引き起こす致命傷

実際に、ある大手メーカーで発生した不正会計事件では、経営トップの強力な指示が各部門に圧力をかけ、部門間のコミュニケーション不足を招いた結果、ガバナンスの欠如に繋がりました。このケースでは、経営陣が業績向上を優先しすぎたことで、部門間の連携が疎かになり、最終的には不正行為が行われるに至ったのです。

また、製造業の製品検査における不正行為が多発した事例でも、強いトップダウンの指示が部門を疲弊させ、不正を招いたと外部監査によって指摘されています。

このような事例を「トップの責任」として一括りにするのは容易ですが、それでは問題の本質を見失ってしまう危険があります。

「責任はどっちだ」の問題が頻発する背景

ここで、「強いトップダウン=悪」という単純な図式が誤りであることは明白です。もし、これが正しいとするなら、GAFAのような強力なトップダウンで成功を収めている企業の存在を説明することはできません。では、他にどのような要因が部門間の責任不明確を引き起こしているのでしょうか。

まず、縦割り組織では部門間のコミュニケーションが不足しがちで、これが責任の曖昧さを生むと言われています。しかし、これも中小規模の企業であっても同様に「責任はどっちだ」問題が多発している事実から、決定的な原因とは言えません。例えば、同じ企業内で兼務が多い場合でも、この問題は頻発します。これは、業務が互いに絡み合っているにもかかわらず、誰が最終的な責任を負うのかが明確でないためです。

また、ルールやコンプライアンスの理解不足が、各自の業務に対する責任認識を弱める要因となることもあります。しかし、これもまた、問題の発生した企業が年間に多額のコストをかけて研修を行っているケースが多いため、必ずしも根本的な原因とは言えません。さらに、第三者による監査や内部統制、ガバナンスの欠如が問題視されることもありますが、これらは問題を未然に防ぐための「仕組み」でしかなく、根本的な解決策にはなりません。

「人間だから仕方ない」では済まされない

一方で、「人間だから仕方ない」として問題を感情論で片付けてしまうのは、何の解決にも繋がりません。例えば、Googleが採用しているOKR(目標と成果指標)という制度では、個々の目標が明確であり、その目標に対する個人の貢献が可視化されることが、チーム全体の成功に繋がるとされています。これは、個々の仕事に対するモチベーションが「誰かから与えられるもの」ではなく、「自己発生するもの」であることを示唆しています。

つまり、仕事へのモチベーションの源泉には「個人としての責任感」が重要な役割を果たしているということです。「人間だから仕方ない」という考え方であれば、まずは仕事のチームを「目標達成のための装置」とし、その中でメンバーを「機能」として捉える必要があります。

ここで強調したいのは、人間性や感情を軽視するのではなく、それ以上に個人をチームの機能として明確に位置づけ、その個人としての責任を明確にすることで、人々はチームへの貢献意識を高め、結果として仕事に対するモチベーションが向上するということです。

「責任はどっちだ」問題を解決するための「経営者として問われるべき姿勢」

では、部門間の責任の曖昧さを解消し、組織全体のガバナンスを強化するためには、経営者としてどのような姿勢が求められるのでしょうか。以下に、具体的な5つの方法を挙げます。

1.強力なトップダウンによる明確な目標設定とKPIの設定

部門ごとの目標を明確にし、達成期限や数値、もしくは具体的な状態で設定します。部門長はそれに基づいて部員に対して具体的なKPIを設定し、その進捗を管理します。このプロセスにおいて、上層部は各部門および個人の成果が組織全体の目標達成にどう結びつくかを確認し、責任を果たせるような体制を整える必要があります。これにより、個々の責任を果たすことが組織全体の成果に直結する仕組みが構築されます。

2.責任を果たせなかった場合の明確なペナルティ

責任を果たせなかった場合には、解任、降格、減給などの明確なペナルティを設定することが重要です。これにより、個々の責任感を強化し、責任が役割として分配されても、それを逃れられないという認識を持たせます。もちろん、チームに対する貢献も重要ですが、それも明確な責任として設定し、果たせなかった場合には査定が下がることを明示する必要があります。

3.公明正大なルール運営による心理的安全性の確保

どんなゲームでも勝ち負けがあり、それがあるからこそ人は努力します。不正や依怙贔屓が許されない環境を整えることで、上記のペナルティも受け入れやすくなります。これが心理的安全性の真の意味であり、負けた場合に責任を問われない環境は、無責任なチームメイトを生む原因となります。リーダーシップとしては、公平で透明性のあるルール運営を徹底することが求められます。

4.失敗を責めず、次の行動を促す

責任を果たせなかった場合、制度上の評価を受け入れる環境が整っていれば、失敗やミスを必要以上に責める必要はありません。ただし、しっかりと原因分析を行い、次の一手を見つけることが求められます。これもまた、責任の一部として認識させる必要があります。言い訳をすることも時には解決策を見つけるヒントになるため、言い訳と徹底的に向き合う姿勢を求めるべきです。

そして、これはトップにも同様に適用されます。部下に責任を押し付けているリーダーは、むしろ組織の成長を阻害する要因となります。

5.結果だけで評価する

明確なルール設定に基づいて、その結果のみで評価を行います。なぜなら、結果が出ていない状況で「頑張った」という言い訳は、結果的に無責任の始まりを意味するからです。努力や過程も重要ですが、それが最終的な結果に結びつかなければ評価されるべきではありません。結果を重視することで、部門間の責任が明確になり、全員が同じ目標に向かって努力するようになります。

おわりに

部門間の責任の曖昧さを排除し、透明性と公正さを持ったリーダーシップを発揮することが、企業の持続的な成長を支える鍵となります。責任の所在が明確であり、全員がその責任を自覚して行動する環境を整えることが求められます。経営者として、上述した5つの方法を実践することで、組織全体のガバナンスを強化し、持続可能な成功を収めることができるでしょう。強力なトップダウンのもとで成果を追求し、責任の曖昧さを排除する姿勢を持ち続けることが重要です。

識学総研:https://souken.shikigaku.jp
株式会社識学:https://corp.shikigaku.jp/

 

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