「自由な会社」で働くのが理想だ、そう思っている方も多いことだろう。だが「自由な会社」は往々にして息苦しさを感じることもあるという。マネジメント課題解決のためのメディアプラットホーム「識学総研(https://souken.shikigaku.jp/)」から、「自由な会社」の問題点を知ろう。
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履き違えた自由が会社を弱体化させる
「楽しく働きたい!」
「自由な会社で働きたい!」
そう思っている人は多いでしょう。
出社時間は自由、サークルのようにワイワイ仕事して、夜はチームのみんなと飲みに行く。
リーダーもやさしいし、ルールもきちっと決まってないから柔軟に動ける。
そんな「理想の」会社で働きたい、と。
すでにそういう会社で働いている人も多くいます。ただ一方で、最近こんな声も聞こえてきます。
「毎日なんとなく楽しいけど、一向に給料も上がらないし、このままこうやって仕事を続けていていいのかわからない……」
「こんなに努力しているのに評価されない。成長しているのかどうかもわからない……」
「理想の」職場だったはずが、みんな迷い始めているのです。メンタルを崩す人も増えているといいます。
私はマネジメントの専門家としてあらゆる組織を見てきました。そして、いま明確に「危機感」を抱いています。
それは、履き違えた「自由」が蔓延することで、会社が弱体化してしまうのではないか? ということです。
いま一度「私たちが本当に目指すべき理想の組織とはどういうものなのか?」あらためて考えてみる必要がありそうです。
ルールが見えない組織は「地雷の埋まった戦場」
「自由な組織」の問題点はいろいろありますが、いちばん問題なのが「ルールが明確ではない」ということです。
あるベンチャー企業で働いている人がこんなことを言っていました。
「自由な社風だというから自由に振る舞っていたら、あとから上司に注意された。自由といっても結局ルールは上司が決めるのだから、はじめに言っておいてほしい」
ある出版社に勤めていた人もこんなことを言っていました。
「SNSに関するルールがないから自由に発言していたら、急に呼び出されて注意された。ルールを決めてほしいと伝えると、それはケースバイケースで対応すると言われた」
ほとんどの「自由な会社」ではルールが示されていなくても、実は「暗黙のルール」が存在しています。
「自由にしていいよ」と言われていても、あとから「あれはダメ」「これもやりすぎ」などと言われるとしたら、そこは「楽園」などではありません。むしろ「地雷の埋まっている戦場」に近い。
そういう場所では、社員は自由に振る舞うどころか、刺されないように逆に動かなくなっていきます。「ルールがない」ことは、部下にとっては逆に「ストレス」なのです。
信号があるから事故は起きない
「ルールに縛られたくない」と思ってきた人は「ルールを守りなさい」と言うと、まるで監獄に閉じ込められるくらいの反応を示す人がいます。
ただ、実際は真逆なのです。考えてみてください。交通ルールにストレスを感じている人はいるでしょうか?
道路上にはたくさんのルールがありますが、だからこそ車はスムーズに走れています。逆に交通ルールがなかったら、事故が起きまくって、トラブルだらけになるでしょう。
もしルールがなければ、みんなが警察官の顔色を見ながら過ごさなくてはいけなくなります。いざ横断歩道を渡り始めたら「そこは渡ったらダメなパターンだから、罰金ね」と言われる。スピードを出して走っていたら「実はここ、60キロ以上出しちゃダメだったんだよ」と違反切符を切られる。そんな世界のほうがむしろ「監獄」です。
ルールがあるからこそ、安心して横断歩道を渡ることができるし、快適にドライブができるのです。
ルールを明文化しない方が、一見自由があるように思えます。しかしそれは錯覚です。
ルールを明確にしたほうが逆に自由になるのです。
「感情」ではなく「ルール」に基づいたマネジメントを
ルールがないと、お互いの「阿吽の呼吸」で動かなくてはいけません。「暗黙の了解」のもとで動かなくてはならない。
そこがうまくいかないと「なんでこれやってくれないの?」「俺はこれだけやってるのに!」「あの人はもっと動くべきだ」などとつねに余計な感情が発生することになります。
私の会社では、ルールが明確に定められています。社員はルールに基づいて粛々と仕事を進めます。きちんとルールがあるので、誰かに気を使う必要はありません。
実はルールを明確にすると、会社はギスギスしなくなります。社長である私を含めて、誰も人間関係でのストレスは抱えていません。組織内の人間関係は良好なので、これまでにメンタルを病むような人間は一人も出ていません。
私が組織マネジメントのコンサルティングをするときに、まず指摘するのが「ルールを明確にしなさい」ということです。お伝えしたとおりに、ルールのある環境をつくった会社ではみんな「快適だ」と言っています。「ルールをつくったことでストレスになった」という話は、まだ聞いたことがありません。
それでも「そんな感情のない職場なんてイヤだ」と思うでしょうか? そこも逆です。
ルールのある会社では、みんなが無表情で働いているわけではありません。笑ったり、よろこんだり、ちょっとイラッとしたり、ということは人間なので当然であります。そこを否定しているわけではありません。
マネジメントを「ルール」に基づいてやることが大切なのです。感情は「結果として」出るもの。マネジメントを「感情」に基づいてやる、ということが間違いなのです。
誰もが迷わずに、最短距離を走ることができる
ルールに基づいたマネジメントの大切さに気づいたのは、ラグビー部に所属していたころです。私は大学時代、ラグビーをやっていました。早稲田大学のラグビー部だったのですが、私が在籍中、清宮克幸氏が監督に就任しました。
清宮氏といえば、のちに5年連続で関東大学対抗戦でチームを全勝優勝に導き、大学選手権も3度制覇することになる名監督です。今となっては名監督ですが、そのころはまだ監督の経験はありませんでした。
清宮氏が監督に就任すると、ものすごくルールが増えました。ラグビーは、ひとりがボールを持って相手陣地に突っ込んでいきます。相手に阻止されて、ぐちゃぐちゃとモールになって、そこからまたボールが出て……というのを繰り返していきます。これまでも「誰が突っ込むか」「その後どっちにボールを出すか」という一次攻撃までは決まっていました。ただ、そのあとはケースバイケースで、その場の思いつきやアイコンタクトで動いていたのです。
そこを清宮監督は四次攻撃、五次攻撃くらいまで「誰が、どこに、どのように攻めていくか」ということをビシッとルールで決めました。「こういうプレーが正しいプレーである」ということをしっかり定義したのです。しかも相手の動きのパターンごとにルールが決められました。
私も最初は「そんなに細かく決まっていたらやりにくくないか?」と思っていたのですが、やってみると逆でした。プレー中に選手全員が迷わなくなったのです。間髪入れずに次のプレーに移るので、スピードも生まれます。チームはみるみる強くなっていきました。
「ルールを決めると、人は考えなくなるのではないか?」という懸念もありましたが、そんなこともありませんでした。むしろ、余計なことに迷わなくなったから、さらに上のレベルで緻密に頭脳を使えるようになったのです。
チームは目に見えて強くなっていきました。
ルールは「まず決める」ことが重要
「ルールを決めたほうがいい」と言うと「そのルールが間違っていたらどうなんですか?」と聞かれることがあります。
清宮監督の例でも「清宮監督が名将で、正しいルールを作ったから、勝てただけでしょう? 普通の人がルールを作ったら、間違った方向に進んでいってしまわないか?」と思われるかもしれません。
ただ、ここで重要なのは「ルールが正しいかどうか」ではないのです。「まずルールを決めて、動いてみる」ということが重要なのです。
ルールに基づいて動いてみて、それがもし通用しないのであれば変えればいいだけの話です。まずは決めて動いてみないと、正しいかどうかすらわからない。選手はずっと迷いながらプレーすることになります。そんなことでいい結果が出るわけがありません。
何が正しいことなのか? 何がベストなルールなのか? それは誰にもわかりません。答えがない中でも、まずはルールを決めて実行してみる。そこで間違っていたら変えればいいのです。それをいかに繰り返すことができるかが問われているのです。
結果が出るから、うまく回りだす
監督としての実績もまだない清宮氏がルールをどんどん作っていったので、最初はチームのメンバーも半信半疑でした。いきなり「こうしろ」「ああしろ」「これが正しいプレーだ」と言われるわけです。これまでの自分の考えと違うことも言われる。
練習時間もこれまで4時間やっていたところ、2時間に減らされました。「こんなに練習時間が短くて大丈夫なのか?」とみんな不安になりました。ただ就任2ヶ月後くらいから練習試合が始まったのですが、強くなっていることに気づいたのです。「あれ? 俺らなんか強いぞ」と。そのあたりからメンバーは誰も疑わなくなりました。
ルールを決め、軌道修正しながらも、一度結果が出てしまえばメンバーは疑わなくなっていきます。もちろんルールを決めてから結果が出るまでに「時間差」ができるのは仕方がありません。ただ、それでも我慢してブレずにやることが重要なのです。
「会社は仕事をする場所だ」という原点に帰ろう
冒頭の話に戻りましょう。
「自由に働きたい」という気持ちはわかります。でも、会社は利益を追求するための場所です。目的に向かって仕事をするための場所です。楽しく自由にしたいのであれば、家族だったり、趣味の場面だったり、いま流行りのサロンだったり、会社の他にたくさんあるでしょう。
会社が利益を出さなければ、社員は食べていけなくなります。「自由」だけがあって食えなくなるような組織でいいのでしょうか? 自由な組織は一見「やさしい」組織に見えます。でも、それで食えなくなったとしたら、それは本当に「やさしい」組織なのでしょうか?
きちんとルールがあり、ルールに基づいて粛々と仕事をし、利益を獲得する。それが組織の役割です。そういう組織こそが、真の意味で「やさしい」のではないかと思うのです。
もっとも「人間的」なマネジメント
先日、私に3人目の子どもが生まれました。私は子どもたちに、立派に成長して社会で力強く生きていってほしいと思っています。だからこそ、好きなようにはさせません。「お菓子が食べたい」「ゲームがしたい」と言われても、すべて自由にさせるようなことはないでしょう。それは子どもを大切に思っているからです。
「親である私がこの世からいなくなっても、この子は生きていけるかな?」
「きちんとこの子は、世の中の役に立つ人間になれるかな?」
そう思うからこそ、ルールに基づいて「子育て=マネジメント」をするのです。子どもがかわいいからこそ、甘やかすのではなく厳しく育てるのです。
私は、経営者に対しても同じようなことをお伝えします。
「この会社がなくなっても、きちんと社員たちは生きていけますか?」
「社員は成長していますか? 社会で生き抜く力をつけていますか?」
真に社員を思うのであれば、自由にやりたいようにやらせるのではなく、ルールに基づいてマネジメントすることです。すると、人は成長し、組織も成長するでしょう。
よく私の考え方は「非人間的だ」「軍隊っぽい」などと言われるのですが、私は真逆だと思っています。社員や組織の成長を願うからこそ、きちんとマネジメントをする。実は「もっとも人間的なマネジメントである」と信じているのです。
引用元:安藤広大/株式会社識学 代表取締役社長note「なぜ「自由な会社」ほど息苦しいのか。」https://note.com/kodaiando
【この記事を書いた人】
安藤広大/代表取締役社長
組織マネジメントの専門家。早稲田大学卒業後、NTTドコモ入社。2006年にジェイコムホールディングス入社。2015年、株式会社識学を設立。業績アップの成果が口コミ等で広がり、コンサルティング実績は2000社超に。
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いかがでしたか。自由にやりたいようにやるのではなく、ルールに基づいてマネジメントすることの重要性がおわかりいただけたでしょうか。
引用:識学総研 https://souken.shikigaku.jp/