空前の人手不足が続く中、企業が“できる人財”を採用することは困難な状況になっています。そこで、日本マクドナルドの「ハンバーガー大学」で学長や、「ユニクロ大学」部長を務めた 有本 均氏の著書『全員を戦力にする人財育成術 離職を防ぎ、成長をうながす「仕組み」を作る』から、採用した人をできる人財に育てる方法を紹介します。

文 /有本 均

評価者が知るべき4つのポイント

評価者が評価についての教育を受けていないために、適切な評価ができていないという問題を指摘しましたが、その対策として私たちは評価者研修と評価会議を実施することを提唱しています。

まず、評価者研修から説明していきましょう。評価者研修では、図4‒3に示した4つのポイントを中心に座学とロールプレイで学んでもらいます。

1.関係の質を高める

これは評価対象の部下との間で信頼関係を築いていないと、評価に対する納得度が低い、ということです。信頼関係ができていれば、悪いところを悪いとしっかり伝えられますし、それを聞いても納得してもらえます。リーダーシップ研修に近い内容です。

マサチューセッツ工科大学のダニエル・キーム教授が提唱した「成功循環モデル」(図4−4参照)も座学の中で説明します。

一言で言えば、組織として成功するには、「メンバー間の関係の質を高める」ことから始めるというものです。店長が店のスタッフの話をよく聞くなどして、組織のメンバー間での「関係の質」が高まってくると、個人にもいろいろな気づきが出てきて、「思考の質」が向上します。「思考の質」が高まれば、自分の頭で考え、自発的に望ましい行動をとるようになり、「行動の質」が高まります。「行動の質」が向上すれば、「結果の質」が高まります。良い結果が出れば、組織のメンバー間がお互いに信頼するようになり、「関係の質」が向上するという好循環が生まれるわけです。

店長はともすれば、売上という結果にばかり目が向きがちですが、結果を出すためにはまず、スタッフとの信頼関係を築くことが必要なのです。店長は座学研修を受けることで、現場では気づかなかったマネジメントを学ぶことができます。

2.評価の原則を守る

これは、具体的な行動を評価する、評価期間を守る(評価期間外のことを評価に入れない)、人間性でなく仕事を評価する、など、公正な評価のために守るべき原則を理解してもらいます。

3.評価時の注意点を理解する

これは評価にまつわる一般的な知識を伝えるもので、「中心化傾向を避ける」「寛大化傾向に注意する」といったことを理解してもらいます。

座学とロールプレイを組み合わせる

4.効果的なフィードバックをする

評価で最も大事なことは、それを対象者にきちんと伝え、次のアクションにつなげることです。このフィードバックについてはロールプレイで学んでもらいます。面談において伝えるべきことと、言ってはいけないことを体感するとともに、褒めた後に課題を指摘する、というような話の順番などを理解してもらうことが目的です。

このロールプレイは、やるとやらないとでは大違いで、頭で理解できているつもりでも、案外、うまくできていないものです。

例えば、あまりいい評価ではない場合、悪いところをしっかり伝えよう、という姿勢はいいのですが、それを伝えるだけで終わってしまう、ということが起こりがちです。言うべきことは言うにしても、面談は「じゃあ、今回の反省を活かして、次は頑張ろう」と思ってもらわなければ育成効果につながりません。ネガティブな気持ちで終わるべきではないのですが、そこがなかなかうまくいかない。上司側は悪気があって言うわけではないのですが、それこそが問題です。ですから、いい点を褒めてから、改善すべき点を指摘する、というように話法を習得する必要があります。

そして面談の最後は、「次はどうしていくか」をしっかり話し合う必要があります。評価を伝えて終わり、では育成効果は生まれません。評価面談ですから、評価を伝えることは必須ですが、人財育成を目的とするなら「今回の結果をふまえて、次はどうするか」を話し合って決めることが欠かせません。ここでは、相手が考える目標設定について、問いかけながら引き出していくコーチングのスキルが必要ですから、評価者研修ではそれもプログラムの一つに組み込むといいでしょう。

面談によるフィードバックの良し悪しによって、部下の成長度は変わってきます。効果的なフィードバックの仕方は、すべてのマネージャーが身につける必要があります。それには、座学とロールプレイを組み合わせるのがいいでしょう。


有本 均(ありもと・ひとし)
株式会社ホスピタリティ&グローイング・ジャパン 代表取締役会長、グローイング・アカデミー学長。1956年、愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部入学後、大学1年生からマクドナルドでアルバイトを始め、1979年、日本マクドナルド株式会社に入社。店長、スーパーバイザー、統括マネージャーを歴任後、マクドナルドの教育責任者である「ハンバーガー大学」の学長に就任。2003年、株式会 社ファーストリテイリングの柳井正会長(当時)に招かれ、ユニクロの教育責任者である「ユニクロ大学」部長に就任。その後、株式会社バーガーキング・ジャパン代表取締役など、外食・サービス 業の代表、役員を歴任する。2012年、株式会社ホスピタリティ&グローイング・ジャパンを設立。 日本マクドナルド、ユニクロ等を経験して得た「人財育成のノウハウ」を活かし、世界中のサービス業の発展を目指す。

『全員を戦力にする人財育成術 離職を防ぎ、成長をうながす「仕組み」を作る』
有本 均 著 ダイヤモンド社

           

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