長野県小諸市にある中棚荘は若き日の島崎藤村が足しげく通った一軒宿です。
明治32年(1899)、小諸義塾の教師として赴任した藤村は、『千曲川旅情の歌』をここで執筆したとされています。中棚荘には藤村が眺めた頃と変わらぬ景色を望むことができる「藤村の間」があり、多くのファンが訪ねています。
源泉かけ流しの温泉は少しぬるめ。露天風呂でじっくりと湯浴みを楽しむと肌がつるつるになる湯で、飲泉も可能という新鮮な温泉です。内湯は、10月~5月にはリンゴを浮かべる「初恋りんご風呂」となります。ほんのり香るリンゴが旅情をかきたててくれます。
宿には、江戸時代の旧家を移築した「はりこし亭」という食事処があります。登録有形文化財の建物は、欅を中心としたい純木造建築。由緒ある佇まいのなか、手打ち蕎麦などの昼食を気軽にいただくことができます。
また、予約でそば打ち体験も可能です。自身の手でそばを打ち、食し、名湯に浸る。そんな楽しみもできる温泉宿です。
取材・文/関屋淳子
桜と酒をこよなく愛する虎党。著書に『和歌・歌枕で巡る日本の景勝地』(ピエ・ブックス)、『ニッポンの産業遺産』(エイ出版)ほか。旅情報発信サイト「旅恋どっとこむ」(http://www.tabikoi.com)代表。