麻婆豆腐や担担麵などに使われる主な食材を栄養学の専門家が分析。
四川料理のスタミナの所以を知り、よりよい食べ方を覚えておきたい。
体がだるくて気力がなく、食欲がわかない。そんな夏バテの症状が出ているとき、体はどんな状態なのか。
管理栄養士で国際中医薬膳師の清水加奈子さんはこう説明する。
「気温が高いとき、人間は汗をかいて熱を放出し、体温を一定に保ちます。このとき、内臓も含めた体全体の体温が低下します。これが長く続くと代謝が悪くなり、疲労物質が溜まって夏バテの症状に。予防には、体の中から体温を上げる食事が必要です」
経験的知識を基本とした中国の薬膳では、食品の性質を温熱性、中性、寒涼性に分類している。食べると体温が上がる温熱性の食品に、唐辛子、大蒜(にんにく)、花椒、胡椒がある。これらが体の中から体温を上げるのだ。唐辛子の辛み成分であるカプサイシンは、エネルギー代謝を促進し、体脂肪の燃焼を促すという。四川料理で「三椒」と呼び、多くの料理に使う唐辛子、花椒、胡椒の辛み成分は「胃液の分泌を促し、消化吸収を助け、食欲を増進させます」と清水さん。
豚肉が豊富に含むビタミンB1が不足すると、糖質の代謝が滞ってエネルギー不足に陥り、全身の倦怠、集中力の低下などが起こりやすいというから、スタミナをつけるのに豚肉は欠かせない。ビタミンB1の腸からの吸収率を高め、体内での働きを持続させるのが、大蒜の香り成分のアリシン。だから、豚肉と大蒜を組み合わせた料理は夏バテ予防に最良なのだ。
唐辛子
スタミナ成分 カプサイシン
辛い刺激が食欲を増進代謝を上げて体内の脂肪を燃やす
写真は四川省特産の唐辛子、朝天辣椒。辛み成分のカプサイシンが胃液の分泌を促して消化吸収を助ける。また、交感神経に作用し、体内の脂肪を燃やして熱エネルギーを生み、代謝を上げる。カプサイシンと抗酸化作用のある色素成分のカプサンチンは、油に溶ける性質がある。
花椒(ホウジャオ)
スタミナ成分 サンショール
痺れる辛さが代謝を上げ血流を促進する漢方生薬のひとつ
中国山椒とも呼ばれる。実ではなく果皮に爽やかな香りと痺れる辛みがある。日本の山椒と同族異種で、こちらのほうが辛みは強い。辛み成分のサンショールは代謝を上げ、血流を促進する働きがある。漢方の生薬のひとつで、健胃、止痛、お腹の冷えを抑えるなどの作用があるとされている。
豚肉
スタミナ成分 ビタミンB1
糖質のエネルギー変換に欠かせない成分を豊富に含んだ食材
豚は中国では重要な食材。多様な調理法とあらゆる部位を使った料理がある。必須アミノ酸をバランスよく含み、ほかの畜肉よりビタミンB1が豊富。体内で糖質をエネルギーに変換する酵素が機能するには、このビタミンB1が不可欠で、不足すると疲労物質が溜まりやすいので注意。
大蒜(にんにく)
スタミナ成分 アリシン(アホエン)
ビタミンB1の体内での吸収を促す豚肉との相性抜群
古代エジプトですでに栽培されていた香味野菜。大蒜を切ると出る香り成分のアリシンは、ビタミンB1の体内での吸収を促す働きがあるので、豚肉とともに摂るとよい。大蒜を油で低温加熱するとアリシンがアホエンに変わる。アホエンには血栓予防作用があり、血流を促進する。
取材・文/矢野興子 撮影/宮地 工、泉 健太
※本記事は『サライ増刊 男のだいどこ』2012 夏号に掲載されたものです。
※記事の内容は掲載当時の情報です。