沖縄観光でほとんどの人が訪れる場所のひとつが、那覇の台所・牧志公設市場です。そのカオス然としている光景には、“日本の中のアジア”を感じられるのではないでしょうか。
色鮮やかな魚介に、青々とした力強い野菜。公設売場の食肉売り場には、多彩な豚の部位が並んでいます。
これらの沖縄の食材を味わうためには、市場の2階にある食堂に行くのもよいでしょう。でも、普段沖縄の人が食べている料理を食べたいと思いませんか? それなら、お勧めの店があります。
牧志公設市場脇の路地に入ると、「島野菜たっぷりの自然の味」という文字が見えてきます。そこがお勧めの店『沖縄料理 あじまあ』です。
とくに、昼のランチバイキングは沖縄の伝統野菜である島野菜などを使った10種類ほどの惣菜が用意され、いろいろな味を少しずつ楽しむことができます。
ゴーヤーやナーベーラー(へちま)、青いパパイヤやウンチェー(空芯菜)、シブイ(冬瓜)といった島野菜は、日替わり料理で出されます。調理法もお馴染みのチャンプルーをはじめ、イリチー(炒め煮)、ンブシー(味噌煮)など、沖縄の伝統的なものです。
さらに、定番料理としてモズク、フーチバー(よもぎ)、紅芋の天婦羅が並びます。沖縄で天婦羅といえば、衣が厚く味がついたものですが、同店では衣は薄くカリッと揚げています。ほんのり塩味を効かせているので、そのままで食べられます。
「ご飯は白米、麦ご飯、そして沖縄の炊き込みご飯のジューシーの3つから選べます。観光客の方はほとんどジューシーを選ばれ、地元の人には麦ご飯が人気です。どのご飯が減るかで、今日は観光客の方が多かったなぁ、といったことがわかるのです」
店主の仲村渠(なかんだかり)風太さんは、こう分析しています。
ランチバイキングには、サラダバーもあります。季節の野菜のほか、島野菜ではニガナとハンダマー(水前寺菜)は必ず用意しているそうです。スルルーとかスルルグァーと呼ばれるきびなごの酢漬けや、季節野菜の酢漬けも並びます。
そして、メイン料理ともいえるのが足テビィチ、豚足煮です。手間暇がかかる料理で、ご馳走です。コラーゲンたっぷりの豚足はぷりぷりした食感で、下ごしらえがしっかりされているので旨味をしっかり味わえます。
最後に、甘味のぜんざいが待っています。沖縄のぜんざいは小豆ではなく、金時豆を使います。麦を入れるのも特徴です。
コーヒーや紅茶、さんぴん茶(ジャスミンティー)などとともに、楽しめます。
野菜中心で、栄養バランスのよいランチです。沖縄の家庭料理をひと通り味わえるのも、観光客にはうれしい限りです。
しかし……。
「お客様はもちろん観光客の方も多いのですが、地元の方が増えているのです。多分、家庭で伝統的な沖縄料理を作らなくなったせいでしょうか」
仲村渠さんのこの言葉通り、取材に伺った時間帯は全員が地元の方でした。確かに、これだけの食材を準備して、いろいろな調理法で作るとなると、家庭では無理な話ですが、昨今の沖縄の食事情を知ることにもなりました。
沖縄で昔から親しまれてきた家庭料理。沖縄のおふくろの味は、観光客も地元客も、誰もがホッとする味わいなのです。
【沖縄料理 あじまあ】
住所/沖縄県那覇市松尾2−8−34
電話/098-863-4831
営業時間/11:30〜15:00(入店)
17:30〜20:00(ラストオーダー)
定休日/不定休
ランチはバイキングのみ、夜は定食または単品料理
文/鳥居美砂
ライター・消費生活アドバイザー。『サライ』記者として25年以上、取材にあたる。12年余りにわたって東京〜沖縄を往来する暮らしを続け、2015年末本拠地を沖縄・那覇に移す。沖縄に関する著書に『沖縄時間 美ら島暮らしは、でーじ上等』(PHP研究所)がある。