『八重の桜』(2013)に続き2回目の大河ドラマ出演となる俳優の門脇麦さん。若手ながらその演技力が評価されて、『麒麟がくる』ではヒロインの駒役に抜擢された。戦に巻き込まれて両親を失い、各地の武将と交流のある望月東庵(堺正章)に拾われて育てられた駒は、東庵ともども、架空の人物ながら、物語の中で重要な役割を果たしていく。戦災孤児ながら明るく生きようとする駒を、どう演じていくのか。話を聞いた。
「駒は、初めて登場する時はまだ15歳。戦争孤児で、育った環境は決して豊かではないのですが、自分の過去の話をする時も明るく振舞います。明るくしているからこそ垣間見えてくる哀しみや背負っているものを表現できたらいいなと思っています」
駒は、『麒麟がくる』のヒロインだが、光秀の恋仲になるという意味ではなく、光秀を物語のひとつの柱とした場合、別のもうひとつの柱を担う女性という意味でのヒロインだ。武将として歴史の表舞台で活躍する光秀に対し、駒はその時代に生きた庶民の代表として存在する。
「オリジナルキャラクターなので、具体的なイメージはないまま撮影に入りました。『麒麟がくる』では新しい光秀像を描いていくということで、駒を通してそういう一面をさらに感じていただけたらと。駒を動かすことで見せることができる新たな光秀像があるのではないかと思います」
主人公である明智光秀の側面を掘りさげていく存在である駒の役を担えることが嬉しいという。
「光秀は戦や政治で人生の道を進んでいく人で、駒は人を救うとかいったことで道を究めていく人。最初のうちは光秀に恋心を持っているという設定ですが、届かぬ恋心で、演じていても切ないです。でも、きっとこの恋心が、これから光秀を支えていきたいっていう気持ちになり、男女の関係とは違う別の形で光秀を支えていく関係性に変わっていくのだと思います」
視聴者に近い目線で光秀を見守る
勝者や正義とされた者の文献が多く残り、歴史として語られるのが世の常。謀反人としてしか語られてこなかった明智光秀を主人公に据えた『麒麟がくる』では、これまでとは違った光秀像が描かれるということで、視聴者の興味を掻き立てている。
「光秀を取り巻く史実は、本当はどうだったんだろうっていう探求心がくすぐられますよね。光秀が歩んでいく姿を、ずっと隣で見ていられるのは、すごく興味深いです。観察者というか。駒の目線は、視聴者に近い目線かもしれません」
自身が演じる役どころをしっかり把握し、真摯に向き合っている門脇さんだが、共演者との楽しいやりとりについて語る様子は、かわいらしい若い女性そのものだ。
「堺正章さんが演じている東庵先生は、すごく賭け事が好きで、すぐお金を使ってしまうので、ちゃんと駒が監視していなくちゃいけないですね。だから私、東庵先生とのシーンではなんだかずっとプンプンしていて。いつも〈またこんなことして!〉なんてプリプリしているんですけど、東庵先生と駒は不思議な関係性ですよね。もちろん尊敬している師匠であり、心から頼れる父親のような存在であり、私がしっかり東庵先生を見てなきゃ!みたいな側面もあり。東庵先生も駒も、それから岡村隆史さんが演じている菊丸もオリジナルのキャラクターなので、3人で一緒のシーンの時に堺さんはよく〈我々はオリジナルのキャラクターなので、ちゃんとしてないと、いなくなってしまうかもしれないよ。力を合わせて頑張りましょう!〉っておっしゃっています(笑)だから、みんなで頑張ろう!っていってやっています」
1年に渡って放送される大河ドラマは、この先、駒たちがどうなっていくか門脇さんにもわからないという。しかし、歴史が好きで、時代小説なども子供の頃から多く読んできたという門脇さんは、『麒麟がくる』は読み物としても非常におもしろく、早く続きが読みたくて仕方がないそう。駒と同じ目線で光秀を見つめつつ、駒の行く末も興味深く見守っていきたいところだ。
文/『サライ』歴史班 一乗谷かおり