取材・文/鳥海美奈子
フランスのシャンパーニュ地方では毎年、4月になると約1週間にわたり、「Le Printemps des Champagnes ル・プランタン・デ・シャンパーニュ」と名づけられた試飲会が行われます。そこでは22ものグループが、それぞれテーマを決めて試飲会を開催します。大変に大きな試飲会のため世界中からプレスやソムリエなどのプロが集い、街全体が活気に満ちるのです。
その春の試飲会の最大の特徴は、農家制の小さな生産者たちが中心となり、行っている点です。シャンパーニュといえば、大変に有名なのがモエ・エ・シャンドンやヴーヴ・クリコといった大手メゾンです。
しかし、ここではもっと生産量の少ない、日本酒でいえば地酒のような生産者たちが中心となって試飲会を開催しています。
そういう少量生産の生産者たちは長年、自らの畑で栽培したぶどうを大手のメゾンに販売して、生計を立ててきました。しかし近年は、たとえ生産量は少なくとも、自ら栽培したぶどうを自ら醸造し、自分のシャンパーニュを造る傾向へとシフトしてきたのです。
大手のメゾンは複数の畑、複数のぶどう品種、複数年のワインをブレンドしてシャンパーニュを造ります。そのブレンド法に各メゾンは知恵を絞り、毎年変わらない、そのメゾンならではの味わいを生み出します。
しかし、こういった農家制の生産者たちは単一年、単一ぶどう品種、単一の畑ごとに銘柄を造る傾向にあります。つまり、その年の気候、ぶどう品種や畑の個性を映したシャンパーニュを生産するのです。
そういった新たな挑戦をする生産者が注目され始めたのは、いまから10年ほど前のこと。味わいがそれぞれ個性的かつ素晴らしかったために、パリやニューヨーク、東京など最先端のワインショップやワインバーのソムリエたちに評判となり、やがてスター生産者が何人も誕生しました。
そういった流れを受けて、「Terres & Vins de Champagne テール・エ・ヴァン・ド・シャンパーニュ」というグループが結成されて、ランスで初めて試飲会を行い、大きな話題となったのです。
その「テール・エ・ヴァン・ド・シャンパーニュ」の主催者のひとりがラファエル・ベレッシュさんです。「シャンパーニュは以前は、ほぼ大手しか存在しなかったと言っていいと思います。しかし、様々な人が自らのシャンパーニュ造りを始めたことで、より選択の幅が広がりました。現在は、シャンパーニュの多様性を楽しんでもらえる状況にあります」と語ります。
その後、「自分もオリジナルのシャンパーニュを造りたい」と意欲を持った小さな農家制の生産者は増え続けて、現在に至ります。2019年には、試飲会を開催するグループは22まで増えて、大変な盛況を見せました。
そういった農家制の生産者は、20~30代の若手が多いのも特徴です。またぶどう栽培においても、なるべく化学合成農薬や化学肥料を使わない、ナチュラルな手法へとシフトしています。その結果、クオリティの高いシャンパーニュが多々誕生しているのです。
そんな生産者のシャンパーニュは現在、日本でも購入できます。初夏に爽やかさを演出するシャンパーニュを、ぜひ飲んでみてはいかがでしょうか。
取材・文/鳥海美奈子
2004年からフランス・