取材・文/池田充枝
江戸時代の人々は花や草木で季節の移ろいを感じており、四季折々の花の名所は、行楽の場として賑わっていました。江戸の花の名所は今よりも数多くあり、墨堤、梅屋敷、亀戸天神など花の名所を訪れることは、人々にとって何よりの娯楽でした。
18世紀半ばに植木鉢が普及すると、草花は人々にとってより身近な存在になりました。往来や縁日では植木売りが店を広げ、家の軒先を鉢植で飾ったり、花弁などを変化させた朝顔や、プロの技巧を楽しむ菊細工など、多様な園芸が流行しました。
こうした園芸の流行の様子は浮世絵の格好の画題になりました。
江戸の園芸熱を描いた浮世絵を一堂に会した展覧会が開かれています。(3月10日まで)
本展は、「花見から鉢植へ(プロローグ)」「身の回りの園芸」「見に行く花々」「役者と園芸」の4つのコーナーで構成し、江戸の人々の草花への愛、そして「園芸熱」を前期・後期合わせて約200点の浮世絵を通して紹介します。
本展の見どころをたばこと塩の博物館の主任学芸員、湯浅淑子さんにうかがいました。
「今回の展示では、鑑賞目的でない浮世絵や芝居絵に焦点を当てたところが見どころとなっています。
浮世絵には、美人、役者、風景などを描いた鑑賞目的のものがありますが、一方、摺物(非売品の配り物の絵)、団扇絵(団扇に貼る目的で制作された絵)、おもちゃ絵など鑑賞のみにとどまらない実用的な用途を持つものもあります。今回は、実用的な浮世絵を集めたコーナーを用意し、これらの主題にも鉢植が多く見られることを紹介しています。
また、江戸時代には、見世物、歌舞伎などの娯楽が発達していましたが、見世物や歌舞伎と関係ある絵にも江戸の園芸は登場していました。見世物としては菊細工がありますが、そこからは、菊細工の爆発的な流行だけでなく、当時の園芸の技術がたいへん高度であったことがわかります。
そして、歌舞伎関係の絵としては、園芸を好むことで有名だった人気役者や植木屋が登場する芝居、人気役者が江戸の物売りに扮した絵などを取り上げています。
本展では、想像以上の江戸の園芸熱をお楽しみいただけると思います」
江戸庶民の熱い園芸趣味が浮世絵を通して伝わる展覧会です。ぜひ会場に足をお運びください。
【開催要項】
江戸の園芸熱―浮世絵に見る庶民の草花愛―
会期:2019年1月31日(木)~3月10日(日)
前期1月31日(木)~2月17日(日) 後期2月19日(火)~3月10日(日)
前・後期で展示替えあり
会場:たばこと塩の博物館
住所:東京都墨田区横川1-16-3
電話番号:03・3622・8801
https://www.jti.co.jp/culture/museum/
開館時間:10時から18時まで(入館は17時30分まで)
休館日:月曜日(ただし2月11日は開館)、2月12日(火)
取材・文/池田充枝