『サライ』本誌連載「半島をゆく」の装画を担当している日本画家・北村さゆりさんによる、取材同行エッセイをお届けします。
文・画/北村さゆり
日曜日の鶴岡八幡宮は参拝する人々で賑わっていた。
大銀杏の切り株を眺めていたら、甲冑姿の大人や子供が湧いてきた。“手作り甲冑隊 とんぼの会”と書いた幟が見える。舞殿では結婚式の最中。装束を身にまとった神官や雅楽隊が朱い柱の間に見える。まるで平安絵巻にタイムスリップしたようで、思わずスケッチをした。
じつを言うと、日頃の私にとっての鎌倉は、日本初の公立美術館、神奈川県立近代美術館だった。コルビジェのもとで修行した坂倉準三の設計。平家池に反射する日差しが館内に映り、モダン建築に身を置く豊かさを全身で浴びる事のできる大好きな空間。なんと鶴岡八幡宮の境内にあり、雅な森の平家池に浮かぶ箱型コンクリート。近代と古代が違和感なく存在している鎌倉の象徴のようにも見える。2016年には美術館の役割を終え、2019年春に「鎌倉文華館 鶴岡ミュージアム」として生まれ変わることになっている。
新興商店が入れ替わる小町通りで、私だけの楽しみ方がある。商店街の中程にある創業120年以上の肉屋の中華ちまきをいただくこと。店頭で蒸されるそれには、炭火焼き豚がゴロンと入っていて、小腹が空いた時にちょうど良い。
「半島をゆく」の取材がご縁で、私にはすぎた事だが、夏の「ぼんぼり祭」に絵を奉納することに。2019年は何を描こうかなぁ。
文・画/北村さゆり
昭和35年、静岡県生まれ。日本画家。『利休にたずねよ』『三鬼』など小説の挿絵も担当。著書に『中世ふしぎ絵巻』など。
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