取材・文/藤田麻希
1582年、長崎のキリシタン大名が4人の少年、伊東マンショ、千々石ミゲル、中浦ジュリアン、原マルチノをヨーロッパに派遣しました。天正少年使節です。少年たちはポルトガル・リスボンに上陸し、スペインを経由しながら陸路でローマに向かい、ローマ教皇に謁見し、日本および日本人という存在を彼の地で知らしめました。
しかし、8年後に彼らが帰国したときには、豊臣秀吉によるバテレン追放令が出され、キリスト教は弾圧され、思うように活動することができなくなっていました。一方で、彼らが持ち帰ったヨーロッパに関する知識や、活版印刷の技術などは、後世に大きな影響を与え、現在でも彼らに関する書籍などが多数刊行されています。
そんな、天正少年使節に関する展覧会が、現在MOA美術館で開催されています。この展覧会は二部構成になっており、前半は天正少年使節にちなんだ美術品や、使節のヨーロッパ出発直後に没した織田信長の集めた茶道具などを展示する「信長とクアトロ・ラガッツィ 桃山の夢と幻」です。
「洋人奏楽図」は、キリスト教の伝来とともにもたらされた西洋画の技術で、日本人によって描かれた屏風です。日本の顔料を油に溶いて油絵に近づけようとしています。屏風というヨーロッパにはない形態の画面に、ヨーロッパのモチーフを陰影表現を用いて表しており、不思議な雰囲気を放ちます。
ほかにも教科書でお馴染みの「聖フランシスコ・ザビエル像」や、信長直筆の貴重な書状、信長・秀吉・徳川家康の天下人が所持した「唐物肩衝茶入 銘初花 大名物」などが並びます。
後半の展示は、現代美術作家で昨年のMOA美術館のリニューアルを担当した杉本博司さんによる「杉本博司と天正少年使節が見たヨーロッパ」です。杉本さんが大型カメラで撮影した銀塩写真「クアトロ・ラガッツィ」が並んでいます。このシリーズを制作したきっかけを杉本さんは次のように説明します。
「イタリアのヴィチェンツァにある現存するヨーロッパ最古のオペラ劇場、テアトル・オリンピコに撮影に行ったとき、館長から、劇場のフレスコ画の一面が、1585年に天正少年使節団という日本の使節がここに来て、大歓迎を受けた場面を描いたものだと聞きました。
そのとき、日本人の少年が初めてヨーロッパに行って、ヨーロッパとは何かということを見ている視線と、自分が戦後にヨーロッパを見た視線とが重なって、何か呼ばれている感じがしました。それから意図的に天正少年使節が辿っていた場所を訪れてみると、その少年たちが見た光景とか、当時の建物が残っていることがわかったわけなんです。それを自分があたかも天正少年使節のような目で、その時の驚きをもって写真に撮ってみたら、現代人にとって非常にフレッシュな視点が得られるのではないかということで、作品を作り始めました」
一見、ローマのパンテオン、フィレンツェの大聖堂、ピサの斜塔、ミケランジェロのピエタ像など、現在でも観光客に人気の場所やものを収めた写真なのですが、同時にそれは天正少年使節が見たもの、見たであろう光景なのです。
天正少年使節が活動した時代から伝わっている美術品。そして彼らに感銘を受けてつくられた現代美術作品。2つのアプローチで天正少年使節に迫る展覧会です。
【信長とクアトロ・ラガッツィ 桃山の夢と幻 + 杉本博司と天正少年使節が見たヨーロッパ】
■会期:2018年10月5日(金)~11月4日(日)
■会場:MOA美術館
■住所:静岡県熱海市桃山町26-2
■電話番号:0557-84-2511
■公式サイト:http://www.moaart.or.jp/
■開館時間:9:30 – 16:30 (最終入館は16:00まで)
■休館日: 木曜日(祝休日の場合は開館/11月1日は開館)
取材・文/藤田麻希
美術ライター。明治学院大学大学院芸術学専攻修了。『美術手帖』