取材・文/坂口鈴香
前回は、食事のおいしい有料老人ホームの見分け方について解説した。
ところで老人ホームの食事といったら、どんな食事を想像されるだろうか。もちろん、噛む力や飲み込む力の衰えている入居者には状態に合わせた食事が用意されるが、そうでない入居者にも、魚や野菜の煮物中心で薄味の“高齢者向けの食事”が用意されていると思っている人は多いのではないだろうか。
本当にそうなのだろうか? 今回は、有料老人ホームの食事にまつわる思い込みや疑問を検証してみよう。
Q1 ホームの食事は高齢者に向けた薄味になっている?
決してそんなことはない。若者が食べてもしっかりと味つけされていると感じるだろう。
といっても、管理栄養士によって一日の摂取塩分は計算されている。その分出汁を丁寧に取るなどして、物足りなく感じないような工夫がされているのだ。
だから、「このホームは薄味すぎて、おいしくない」と思うようなら、栄養士か調理師の腕を疑ってもよいだろう。
ただ、漬物好きな人には残念だが、塩分を抑えるため漬物は添えられていないことが多い。
Q2 ホームの食事は煮物が多い?
こちらも、決してそんなことはない。一般的な高齢者世帯と比べても、揚げ物や肉が献立にあがる比率は高いといえる。
入居者に話を聞くと、揚げ物や肉が好物という人は多いし、実際にそのようなメニューは好評らしい。
いずれにしても、老人ホームでは魚が多いとか煮物が多いというのは先入観であり、食べやすくするために切り方や調理法は各ホームが工夫しつつ、肉や揚げ物も頻繁に提供されているのだ。
Q3 海のそばのホームなら、魚はおいしい?
期待している人も多いと思うが、これは結構誤解されやすいポイントだ。
小規模なホームなら、地場の食材を仕入れてそれを出すことは可能だが、ある程度の規模になると、大量の食材を安定して仕入れる必要がある。そして仕入れを見越して献立もつくられている。つまり、「この日、地元でとれた魚」といったものは、入居者全員分供給できるとは限らないので、それらが食卓に上がることはまずない、というわけだ。
というわけで、海の近くのホームだろうが、山の中にあるホームだろうが、どこでも似たような魚や野菜が出る、ということになる。
もちろん例外もあって、料理長が自ら市場に仕入れに行くとか、地元農家など取引先を開拓しているなどというホームもある。そういうホームなら、こうした取り組みをアピールしているので、見学に行けばだいたいわかるだろう。
Q4 いくらおいしいホームでも、毎食料亭のようなメニューだと飽きる?
筆者もじつは、ホームの食事は家庭料理が基本であり、いくらおいしくても毎日料亭のような食事が出されるとさすがに飽きるだろうと思っていた。そんな疑問をホームの職員にぶつけたことがあるが、「料亭のような食事でもおいしい方が良いに決まっています」という返事をもらい、納得した。質の良い調味料や食材を使って手づくりしていれば、飽きることはないと思ってよい。
一方、「飽きる」という声をよく聞くのが、高齢者の自宅に食事を届けてくれる配食サービスだ。おそらく化学調味料か、毎回変わらない画一的な味つけが原因なのではないかと考えている。
Q5 栄養バランスがとれているので、夕食だけでも栄養面は安心?
介護型のホームだと3食ホームで食事をすることになるが、入居時自立型のホームの場合は自炊する人や外食する人も多い。昼食だけ、あるいは夕食だけホームで食べるという人もいる。
栄養バランスから考えると、ホームで3食とることを前提として総合的に献立がつくられているので、一日のうち1食だけホームでとるよりも、3食とった方が栄養バランスは良くなる。
筆者が話を聞いたなかでは、ホームに入居する前まで何年も血液検査の数値に問題があったが、ホームの食事を3食とり続けただけで、薬も飲んでいないのに半年で数値が改善したという例もあった。
Q6 うなぎや寿司が出る日もあるらしいが、それでやっていけるの?
ホームでは1食あたりの食材費を均等にしているわけではない。おおむね、月単位での食材費が決まっているので、うなぎや寿司など原価の高い“豪華メニューの日”があれば、他の日で原価を下げて調整しているのだ。なお、特別食などのメニューの日は加算料金を取るホームもある。
見学して試食する際も、たまたま豪華な日なら評価が高くなるだろうが、そうでない日もあるので、1日だけの食事で評価してしまってはいけないというのはそういうわけだ。
Q7 家族もホームで食事をとることはできる?
家族もOKというホームは多い。ただ事前予約が必要なホームがほとんどだ。お祝いごとなどの特別メニューに対応してくれることもある。
Q8 ほかの入居者とは違う部屋や自室で食べることはできる?
家族で食卓を囲むために別室が用意されているホームもある。また、体調がすぐれないときなどは、自室で食べることもできる。その場合は、自室に食事を運んでくれる。料金はホームにもよるが、自室への配膳は無料としているホームの方が良心的なのは言うまでもない。
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以上、有料老人ホームの食事にまつわる疑問を検証した。
有料老人ホームで試食をした人の多くが「こんなに味がしっかりついているとは思いませんでした」「揚げ物も出るんですね」などという感想を口にする。それだけ老人ホームの食事は「薄味」で「魚や野菜が中心」だと思われているということでもある。
あくまでも筆者がこれまで話を聞いて、試食してきたホームの傾向ではあるが、決して「魚や野菜の煮物」が多いわけではないことがおわかりいただけたと思う。
さて、実際はどうなのか? ウソかマコトか、ぜひ自分の舌で確かめてほしい。
取材・文/坂口鈴香
終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終活ライター”。訪問した施設は100か所以上。20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。