取材・文/坂口鈴香

先日、新聞に70代の男性による次のような趣旨の投稿が掲載された。

“サ高住に入居しているが、入居後、サ高住の方針が変わったようで、介護度の高い人を多く受け入れるようになった。周りに自分と同じように自立度が高い人がおらず、戸惑っている。入居するときは、こうなるとは思っていなかった。かといって転居する資金もない。これから先、自分もそうなっていくとは思うものの、周りと話も合わず毎日がつまらない”

数日後、それを受けて、有料老人ホームに入居している女性からも「自分も同じような状況だ」と、その男性に同感する投書が掲載された。

これらの投書を、読者の皆さんはどう思われるだろうか。もし自分や親がその立場だったら……と考えると、投書された方に同情する方も多いのではないだろうか。そんな不幸な結果を招かないためには、どうしたらいいのだろうか?

サ高住や有料老人ホームにおけるこうした不満の声に対して、施設選びのプロはどうアドバイスするのか。ホーム入居相談員に話を聞いた。

* * *

●サ高住でのミスマッチはなぜ起きた?

まずは、サ高住に入居している男性の投書から考えてみましょう。

サ高住は自立している方や、介護度が低い方のための住まいとしてスタートしました。
「入居前にしっかり確認! 失敗しない『サ高住』の見極めポイント」 参照)

ところがそれでは利益が出ないという運営者側の事情もあり、介護が必要な人を積極的に受け入れる「介護タイプ」のサ高住が増えてきています。そのためミスマッチが起こり、投書された方のように居心地の悪さを感じている人がいると考えられます。

自立している入居者にとっては、入居後そのサ高住が方針転換したことで介護度の高い入居者が増えたとしたら、投書された方のように「こんなはずではなかった」と施設に裏切られたと感じることも十分考えられ、同情する点もあります。

ただし、入居する側も入居前にそのサ高住の性格をよく理解しておかねばなりません。投書された方の場合も、そもそもそのサ高住が「介護タイプ」だったかもしれません。また、入居したときに周りの入居者の介護度が低かったとしても、いずれ常時介護が必要になることは予想できるはずです。投書された方がそうしたことを確認していなかったとしたら、一方的に「裏切られた」とは言えないこともまた事実なのです。

●ミスマッチを感じている人はどうすればいい?

投書された方は、「介護度の高い人が多くて居心地が悪い」と嘆いていますが、逆に「介護度が高くなっても安心して住み続けられるサ高住でよかった」と考えてみてはどうでしょうか。

「こんなはずではなかった」とサ高住の運営者側と争っても、貴重な時間を無駄にするだけです。せっかくお元気なのですから、サ高住は「安心して暮らせる住まい」と割り切って、外に目を向けて、そこで生きがいを見つけることをおすすめします。そもそも、サ高住は自宅にいるように自由な生活ができる住まいなのですから。

●有料老人ホームでミスマッチを感じている場合はどうしたらいい?

2番目の投書のように、ミスマッチを感じているのが有料老人ホームの入居者となると、サ高住の場合とはまったく違ってきます。厳しいようですが、ミスマッチの原因は入居者側にあるのです。

有料老人ホームは、基本的には介護を受ける場所です。

だから、「入居時自立型」でない限り、「介護が必要な人ばかり」なのは当たり前なのです。この方が入居した当時は、介護度の高い人がそう多くなかったのかもしれませんが、年数が経てば介護度が上がっていくのは仕方ないことです。

にもかかわらず投書された方のように違和感があるとすれば、そもそも有料老人ホームがどういうものなのかを理解していなかったか、あるいは入居前の見学で自分に合ったホームを見極められなかったか。いずれにしてもその違和感は、ホーム側の責任とは言えません。

有料老人ホームを選ぶ際には、必ず見学と体験入居をして、他の入居者の様子や雰囲気を自分の目で見て、気持ちよく生活できそうかを判断してください。

* * *

以上、有料老人ホームやサ高住におけるミスマッチについて検証した。

とかくサ高住や有料老人ホームのマイナスイメージが強調されがちだが、話を聞いた入居相談員が指摘するように、入居者側の理解が不足していたり、入居前の見学でサ高住やホームの雰囲気を把握できていなかったりしたことがミスマッチの原因であることも少なくない。

見学時には、この先自分や周りがどう変化していくかまでも想像しながら、そこでどんな生活をしたいのか、どんな生活ができそうかを考えよう。

そして親が終の棲家選びをする際は、子どもも一緒に見学して、親がその住まいに合いそうか見極めるサポートをしてほしい。

取材・文/坂口鈴香
終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終活ライター”。訪問した施設は100か所以上。20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。

 

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