選評/林田直樹(音楽ジャーナリスト)

「シャンソンとはこのように歌われるべき」とジュリエット・グレコが賞賛し、フランスのジャーナリストたちが「詩人の代弁者」と呼ぶ歌手クレール・エルジエール(1971年パリ生まれ)が、シャンソンとフレンチポップの名曲を歌った最新録音『パリ、愛の歌』が素晴らしい。

フランス語が母語ではない聴き手にもはっきりとわかるのは、この歌は言葉の響きを完全に明瞭に伝えているということである。かつての昭和の歌謡曲が、歌詞の意味をきちんと伝えてくれる歌であったのと同じように。そこには、言葉とメロディが深く結びつくことによって何倍もの力を発揮する、詩と音楽の芸術の原点がある。

エルジエールの歌は、さりげなく、全く媚びがない。日常のなかの出来事を淡々と、しかし深い想いを託しながら、共感へといざなってくれる。女性ならではのしなやかな感触は、一度接したら忘れようもないほど、魅力的である。(>>試聴はこちらから

【今日の一枚】
『パリ、愛の歌』
クレール・エルジエール(歌)

2018年録音
発売/リスペクトレコード
電話:03・3746・2503
販売価格/2700円
https://www.claireelziere.com/

文/林田直樹
音楽ジャーナリスト。1963年生まれ。慶應義塾大学卒業後、音楽之友社を経て独立。著書に『クラシック新定番100人100曲』他がある。『サライ』本誌ではCDレビュー欄「今月の3枚」の選盤および執筆を担当。インターネットラジオ曲「OTTAVA」(http://ottava.jp/)では音楽番組「OTTAVA Salone」のパーソナリティを務め、世界の最新の音楽情報から、歴史的な音源の紹介まで、クラシック音楽の奥深さを伝えている(毎週金18:00~22:00放送)

※この記事は『サライ』本誌2018年8月号のCDレビュー欄「今月の3枚」からの転載です。

 

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