夕刊サライは本誌では読めないプレミアムエッセイを、月~金の毎夕17:00に更新しています。金曜日は「美味・料理」をテーマに、福澤朗さんが執筆します。
文・写真/福澤朗(フリーアナウンサー)
ソムリエの田崎真也さんの番組にゲスト出演したときに、カレーに合う日本酒はありますかと質問をしました。それまで様々な食と日本酒の組み合わせを楽しんできましたが、辛いものに合う日本酒を見つけることができずにいました。
すると田崎さんはなんと貴醸酒を選んでくださったんです。
貴醸酒とは、仕込み水の全部あるいは一部に清酒を用いて醸造した琥珀色のお酒で、濃厚で香り豊か、スッキリとした甘みがあります。カレーやタイ料理はビールと一緒に味わい、口の中をさっぱりリセットさせてからまたいただくということをしていたのですが、貴醸酒と合わせるとカレーのスパイスに貴醸酒の甘み、旨みがブレンドされて得も言われぬ旨い料理が口の中で完成するのです。
カレーと貴醸酒がお互いに手に手を取り合って口の中で化学反応を起こす、これぞまさにマリアージュの極みと、脱帽しました。
ワインにも貴腐ワインという、貴腐葡萄を使って醸造する甘美な風味と素晴らしい香りのワインがありますが、おそらく日本酒でも同様の味わいのものができないかと考えたのではないでしょうか。貴醸酒は水の代わりに酒を用いるわけですから、当然コストもかかりますし、より複雑な手間がかかると思います。日本酒醸造の技術の高さがなせる業といえるでしょう。
これまで貴醸酒はごく一部の日本酒好きの人が飲むものという印象があったのですが、これを機に、様々な貴醸酒を取り寄せて飲んでみようかと思いました。癖のある料理や中華料理、ホワイトシチュー、ラザニアなど味付けの濃いものにも合うでしょうし、アイスクリームにかけてみるのもいい。組み合わせをいろいろと試してみたくなります。
そんな懐の広い、すべてを包み込んでくれるのが貴醸酒です。お会いすることはかなわなかったのですが、例えるならば聖路加国際病院の故・日野原重明先生のようなおおらかなイメージですかね。
日本酒はおおいにブームになってほしいのですが、貴醸酒はブームになってほしくない酒。知る人ぞ知る、そんな隠し酒のポジションで居続けてほしいですね。
文・写真/福澤朗(フリーアナウンサー)
昭和38年、東京都生まれ。昭和63年、早稲田大学第一文学部を卒業し、同年、日本テレビ入社。在局中はアナウンサーとして、数々のヒット番組に出演。また「ジャストミート」「ファイヤー」等の流行語も生み出した。2005年7月、フリーアナウンサーに。趣味は、日本酒、鉄道、和菓子屋巡り。特技は卓球。