取材・文/出井邦子 撮影/馬場隆

昭和30年代~40年代、“視聴率100%男”と呼ばれたテレビマンがいた。現・メディアプロデューサーの澤田隆治さんである。

澤田さんが企画した時代劇コメディ『てなもんや三度笠』(朝日放送)の最高視聴率が大阪で64.8%(東京42.9%)を叩き出し、同時期に演出した3番組の視聴率を合計すると100%に達したことから生まれた異名だ。

「当時、多くは生放送。僕らの仕事は消えていくもので、残るのは数字としての実績だけだから、誰も視聴率を意識していない頃から数字を出すことを考えていました」

昭和37年開始の『てなもんや三度笠』は、巧みなカット割りでテレビ的な表現を追求した。同43年、306話で終了。右から澤田さん、山東昭子さん、藤田まことさん、後ろが白木みのるさん。澤田さん29歳のディレクター時代。写真提供/澤田隆治

昭和8年、大阪生まれ。戦後、朝鮮から富山県高岡市に引き揚げる。その高岡で観た一本の映画が、一生を決めた。喜劇の神様、斎藤寅次郎監督の『東京五人男』だ。

「戦後すぐだというのに、ものすごいエネルギーで作られていた。お笑い芸人は皆、元気でした。この映画で私は“お笑い”に強く惹かれたのです」

昭和30年、神戸大学文学部を卒業後、朝日放送に入社。ラジオの寄席番組を担当し、その後、テレビに出向。昭和48年、東京進出。『ズームイン朝!』『花王名人劇場』などの番組をヒットさせ、その足跡は戦後テレビ史に重なる。

■糖尿病の治療法は真のグルメ

70歳を目前に、それは訪れた。体が辛く、目がかすむ。月に80本の番組を作ることもあった忙しさから、ストレスで胃潰瘍や十二指腸潰瘍、胆石にヘルペスも経験したが、その時とは明らかに違う。病院に行ったら、糖尿病だった。

「現在、海老名総合病院糖尿病センター長の大森安恵先生に出会って救われました。投薬に頼らず、治療の要だという食事療法と運動を守りました」

もともと大の甘党だが、甘いものは一切ご法度。糖分が入っているスポーツ飲料も止めた。口にするのは野菜だけ。すると1週間ぐらいで体がシャンとしてきた。運動は1日1万歩の散歩を課す。続けること1か月。体重が5kgも減り、血糖値も正常近くに戻った。

食事療法と運動を続けて10余年。現在の朝食はこのとおり。

前列中央から時計回りに、パン、野菜サラダ(写真はふたり分。レタス・フリルレタス・グリーンアスパラガス・スナップエンドウ・ミニトマト・ハム・ゆで卵)、季節の果物(西瓜 )、文旦のマーマレード(パンとヨーグルト用)、発酵バター(パン用)、ミルクティー、プレーンヨーグルト(メイプルシロップ)。野菜サラダには万能酢か、万能酢ベースの自家製ドレッシングをかける。ヨーグルトにはメイプルシロップに代えて、文旦のマーマレードをかけることも。季節の果物は秋から冬にかけては文旦などの柑橘類が登場。ミルクティーは砂糖を入れず、ストレートで楽しむ。食器はデンマークのロイヤルコペンハーゲン製。

糖質も適度に摂る。糖尿病の治療法は真のグルメ。美味しいものを少し食べることだと確信している。

朝7時頃起床、朝食は8時頃。「朝はしっかり食べます。70代になって、夜も家で摂るようになりました」と澤田さんと知子夫人。

■“笑いと健康”を科学的に証明する学会を設立

ラジオやテレビで笑いを作って60年。70歳で糖尿病を宣告されたのを機に、今度は笑いで社会に恩返しをしたいと平成18年、「笑いと健康学会」を設立した。

「“笑う門かどには福来る”というが、その“福”とは健康のことではないかと考え、笑いと健康を科学的、実証的に研究する学会です。医療関係者、科学者、笑いの実践者など多くの人から賛同を得ています」

実際、ある医師の研究では笑いは血糖コントロールの一助になるというデータがあるという。たとえば、おもしろい漫才を笑いながら聴いた後では、血糖値が下がることが認められているというのだ。笑いに伴う横隔膜、胸筋、腹筋などの運動効果によるものと推定されるが、健康長寿に対する笑いの効用が科学的に証明される日も、そう遠くないだろう。

昨年の「笑いと健康学会」(事務局 電話:03・3403・3403)研究大会では、大森安恵さん(前出)と笑いと健康をテーマに対談。写真提供/澤田隆治

現在は吉本興業主催の「舶来寄席」や大阪・今宮戎神社の福娘の選出など、イベントプロデューサーとしても多忙。次第に忘れられていく芸能人や脚本家の、キラキラ輝いていた頃のことも書き残しておきたい。そのためにも健康であることを願う。

近著に『私説大阪テレビコメディ史』(筑摩書房サービスセンター)がある。花登筐や香川登枝緒らの作家、芦屋雁之助や藤田まことらの芸人を軸に、テレビ草創期から60年の歴史を振り返る。

自宅近くの歩道橋まで行き、その日の散歩コースを決める。

取材・文/出井邦子 撮影/馬場隆

※この記事は『サライ』本誌2017年11月号より転載しました。年齢・肩書き等は掲載時のものです。

 

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