文・写真/鈴木拓也
北鎌倉にある建長寺は、臨済宗の寺格を定めた鎌倉五山の第一位、そして臨済宗建長寺派の大本山として、つとに知られる名寺。第5代執権北条時頼が、中国の禅僧、蘭渓道隆(らんけい・どうりゅう)を招いて1253年に開山した、本邦初の本格的な禅寺でもある。
天下の禅林として、一時は千人を超える修行僧を擁したという建長寺。その長い歴史の中で、火災により衰微した時期もあったものの、江戸幕府の後援によって再興し、2003年の創建750年事業によって、現在の姿を迎えている。
旅行者にとって建長寺の見どころは尽きない。以下、順に紹介したい。
■1:三門(重要文化財)
関東一円から浄財を募り、1775年に再建された建長寺の三門(三解脱門の略)は、その下を通ると心が清浄になることを祈念して造られた。
「狸の三門」という別名があるのは、建立の折に寺で飼われていた狸が恩義に報いようと、僧侶の姿に身を代えて大活躍した言い伝えから。
三門の下には、十六羅漢のひとり「賓頭盧尊者」(おびんづる様)の坐像がある。自分の体で痛いところにあたる部分をなでると、痛みがひくとされている。
■2:梵鐘(国宝)
1255年鋳造という、きわめて古い梵鐘で、蘭渓道隆による銘文が浮き彫りにされている。鎌倉では数少ない国宝のひとつである。
■3:仏殿(重要文化財)
1647年に、江戸の増上寺より徳川秀忠夫人の霊屋を移築したもので、中には本尊である地蔵菩薩像が安置されている。
禅寺で地蔵菩薩を本尊とするのは珍しいが、これは建長寺建立の前に、この地にあった地蔵堂の縁起を引き継いだからだという。
■4:法堂(重要文化財)
法堂(はっとう)とは、もともと住職が須弥壇の上で説法をするための堂宇。そのため本来は仏像を置かないが、今は千手観音菩薩像と釈迦苦行像を祀っている。
法堂の巨大天井画『雲龍図』は、建長寺の創建750年記念事業の一環として、鎌倉に在住した故小泉淳作画伯が描いたもの。見る者に畏敬の念を抱かせずにはおれない、雄渾の大作である。
■5:唐門(重要文化財)
唐門は、1647年の仏殿移築時に一緒に移築された、唐破風の屋根を持つ建築物。先年の大修理によって、往時のまばゆい美しさを取り戻している。
■6:庭園
境内の奥、方丈の裏手にあるのが、蘭渓道隆の作庭した庭園。江戸時代の改修で所々に手が加えられているが、禅寺の庭らしい趣を保っている。方丈には、庭に面してこしかけがしつらえており、境内の散策で疲れた身体を休めることができる。
以上、駆け足の紹介となったが、建長寺の魅力の一端がうかがえたかと思う。
これほどの風光明媚を誇る名刹だが、北鎌倉駅と鎌倉駅の真ん中あたりに位置し、遠方からの旅行者にはややハードルが高い。最寄りの北鎌倉駅から歩いて15分ほどの行程であるが、途次には明月院、東慶寺、浄智寺など名刹があるので、そちらに立ち寄りながら、ゆるりとした気持ちで訪れるとよいだろう。
【建長寺】
住所:鎌倉市山ノ内8
電話:0467-22-0981
公式サイト:http://www.kenchoji.com/
拝観時間:8:30~16:30
交通:北鎌倉駅より鎌倉駅方面に向かって徒歩約15分
文/鈴木拓也
2016年に札幌の翻訳会社役員を退任後、函館へ移住しフリーライター兼翻訳者となる。江戸時代の随筆と現代ミステリ小説をこよなく愛する、健康オタクにして旅好き。