写真・文/野口さとこ

大量のとうがらしを首に巻いた、見るからにインパクトのある外見のこのお方は、その名も「とうがらし地蔵」またの名を「せきどめ子育地蔵尊」という。

文京区小石川の傳通院近くのお寺にあるこの「とうがらし地蔵」。その名前の由来とは、こうだ。

むかしむかし、唐辛子が大好きなお婆さんが喉を患った。お医者さんはおばあさんに、喉に差し障るから唐辛子は食べないようにアドバイスをしたが、お婆さんは唐辛子を断つことができず、結局は唐辛子を食べて亡くなってしまった。

そのお婆さんの死を近所の人々が悼み、地藏尊を造り、唐辛子をお供えしたのが始まり……なのだとか。

その後、咳などの喉にまつわる病に苦しむ人々が祈願すると治り、お礼に唐辛子を供えるようになったそうで、咳の願掛けに霊験あらたなお地蔵さまになった。

訪れた日も、やはり唐辛子がお供えされていた。

大黒様の祠と隣同士。お地蔵さまの祠の看板には「せきどめ子育地蔵尊」と書かれている。幼稚園の敷地内にあり、園舎の方を向いて、園児を見守っている。

ちなみに、明治~大正を生きた牧師・民俗学者の山中笑(えむ)氏によると、このお地蔵さまは耳が不自由で、お願い事をしたい人は、紙にしたためてお堂の中に納め置いたとのこと。なかには郵便ハガキに願いを書いて郵送する人もいたとか。それで、むかしは沢山のハガキや手紙が奉納されていたそうだ。

残念ながら訪問時は、その類のものは見つからなかった。時代と共に、お地蔵さまもハイテク化が進んだのかもしれない。願い事をメールにしたためて、パソコンの前で手を合わせ、送信ボタンを押す人の顔が目に浮かんだ。

【参考文献】
『東京古寺地蔵めぐり』三吉朋十著(有峰書店新書)

写真・文/野口さとこ
写真家。北海道小樽市生まれ、京都在住。1998年フジフォトサロン新人賞部門賞を受賞し、写真家活動を開始。出版・広告撮影などに携わる。2011年 写真集『地蔵が見た夢』(Zen Foto Gallery)の出版を機に、ART KYOTOやTOKYO PHOTOなどのアートフェアで作品が展示される。2014年より、移動写真教室“キラク写真講座”を主宰。可愛くてあたたかい、そんなお地蔵さまの魅力に取り憑かれ、お地蔵さま撮影のため全国津々浦々を旅している。http://www.satokonoguchi.com/

 

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