文/鳥居美砂
沖縄の誇る世界遺産、首里城。モノレールの車窓からも、朱塗りの正殿や巧みに積まれた石垣が見えますが、その全景を間近で見られる場所となると案外少ないのです。
今回は、この首里城の絶景とともに、多彩な泡盛と沖縄食材をふんだんに使った料理を味わえる店を紹介します。
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その店『首里 東道Dining(トゥンダー・ダイニング)』は、首里の龍譚通り沿いのビルにあります。入口は通りに面しておらず、少々わかりにくいのですが、4階でエレベーターのドアが開いた瞬間、目の前に首里城が現れます。
「このビルから先は世界遺産エリアに指定され、高い建物を建てられません。ですから、このように遮るものなく首里城が見られるのです。夜はライトアップされて、漆黒の天空に浮かび上がる姿は荘厳で気品に溢れています」
こう話すのは、オーナーシェフの伊波良子さんです。“隠れ家のような”という表現がありますが、まさに知る人ぞ知る立地です。
シェフの伊波さんは『NPO法人食の風』による検定制度「沖縄食材スペシャリスト」資格を持ち、島野菜や地元食材を使った料理でもてなしてくれます。そして、バーテンダーを務めるのはご主人の盛人さん。県内のホテルをはじめ、東京・銀座でも腕を振るってきました。
お酒は沖縄の全酒造所の泡盛を揃え、中でも地元首里の泡盛にはとくに力を入れ、希少な古酒や珍しい限定商品も用意しています。
首里の赤田、崎山、鳥堀の3つの地域は「首里三箇(さんか)」と呼ばれ、琉球王朝時代は唯一泡盛の製造が許されていました。往時は40ほどの蔵元があったそうですが、現在は「識名酒造」(赤田)、「瑞泉酒造」(崎山)、「咲元酒造」(鳥堀)がその歴史を守り継いでいます。
琉球漆器の酒器を用いた各蔵元の飲み比べコースもあるので、王朝時代に想いを馳せ、じっくり味わってみてはいかがでしょう。
ミントやシークァーサーを使った、オリジナルの泡盛カクテルもおすすめです。泡盛はラムやジンなどと同じ蒸留酒。カクテルのベースにもなり得るのです。爽やかな飲み口で、泡盛の世界を広げてくれます。
ちなみに、その製造工程については第20回の記事で詳しく紹介しているので、ご覧ください。
料理はアラカルトで注文でき、コース料理も楽しめます。バー感覚でも、食事主体のレストランとしても幅広く利用できます。
「コースのお料理は電話で問い合わせくだされば、食材の好みや希望、ご予算などをお聞きして、その方だけのオリジナルコースをご用意いたします。食材は地元、沖縄のものを基本にしていて、旬の島野菜は主人の実家の菜園から届きます。お義父さんが丹精込めて栽培してくれる無農薬野菜は新鮮そのもの、甘みがあってそれは美味しいんですよ。」(伊波良子さん)
この自家菜園の島野菜をはじめ、肉や魚介も地元産の質のよいものを厳選。家庭的な沖縄料理から、宮廷料理をモダンにアレンジした琉球料理まで、丁寧な仕事の上に伊波さんのセンスが光ります。
オリジナルのコース料理は4320円〜、沖縄の銘柄和牛、山城牛を入れるコースは6480円〜が目安です。
テーブル2卓に小さなカウンターのみの小体な店ですが、温かな雰囲気で、ふたりのお宅に招かれたような気分になります。
夕刻、寛ぎながらグラスを傾け、首里城がライトアップされるのを待つひと時は、旅人にとって忘れがたい思い出になるでしょう。
『首里 東道Dining』(トゥンダー・ダイニング)
住所/沖縄県那覇市首里当蔵町2−13 キャッスルビュー4階
電話/098-887-5656
営業/11:30〜15:00(LO14:30)ランチは完全予約制。2日前までに電話予約。
18:00〜21:00
席数が少ないので電話予約が望ましい。コース料理は要予約。
休日/日曜、第1・第3月曜
https://www.tuunda-bar-dining.com
文/鳥居美砂
ライター・消費生活アドバイザー。『サライ』記者として25年以上、取材にあたる。12年余りにわたって東京〜沖縄を往来する暮らしを続け、2015年末本拠地を沖縄・那覇に移す。沖縄に関する著書に『沖縄時間 美ら島暮らしは、でーじ上等』(PHP研究所)がある。