文/鈴木隆祐
都心部の電車の駅間は大体1km程度。歩けば20分前後というところか。しかし、東京メトロ丸ノ内線の新宿~新宿三丁目駅はたった300m、日比谷線の日比谷駅~銀座駅間と銀座駅~東銀座駅間もそれぞれ400mしかない。
それぐらいであれば、目的駅の一つ手前で下りて、そして、歩いてみよう。健康のためによいこともむろんだが、これがなかなか有効な“脳活”になるのだ。
■ちょっとした旅気分を味わいつつ、気軽に自分をリセット
一瞬、見慣れない光景が広がり戸惑うかもしれないが、知らない道を歩いているだけで、どこか得をした気分にもなるだろう。要はちょっとした旅気分を味わいつつ、気軽に自分をリセットできるのだ。
朝のうちなら、気まぐれに常連で賑わう喫茶店に入り、モーニングセットを食べたり、いつもは手に取らない新聞を手に取ってみたりする。そんなことで不思議と新鮮な視点が得られるものだ。
できれば、チェーンでない個人経営の喫茶店がいい。都心部にだって、そんな店がまだまだある。そして、それぞれに豊かな表情を持っている。
そこでの人間観察も有益だ。朝の一服をしている常連客が醸す和気藹々とした雰囲気には和まされると同時に、彼らの会話に耳を傾ければ、自分の関心事とはまるで違う話題に驚くことだろう。ただニュースを見ているだけではわからなかった出来事が、その解説や分析を通じて腑に落ちる場合だってある。
耳に入った知らない単語が気になったら、今ならその場でスマホで調べてみればいい。漫然とテレビを見るよりよほどためになる。かつて松任谷由実は、よくお忍びで渋谷などの喫茶店に通い、女子高生のお喋りに耳をそばだて、歌詞の参考にしたというが、なるほどと思わされる。
この手法で盛り場なども明るいうちに歩くと、「へー、こんな所に新しいバルができたんだ、今度女房と来てみよう」などと、夜には見えなかった発見がある。いつもと違う情景に身を置き、仕事や趣味のプランを考えていると、不意にこれまでにない発想も沸いてくる。
■時間に余裕のできた世代ならではの楽しみにも
散歩番組全盛でも、そこにはつねに目的がある。番組に追随して出かけても、事前の情報の刷り込みがあるぶん、さして刺激を感じない。ネットであらかじめ調べて出かけるのも同じことだ。
だったら、どこかに出かける場合には、一駅手前で間に合うだけの時間に余裕をもって出かければよいだけだ。そうすれば、決まりきった日常から簡単に抜け出せるのだ。
歳を重ねて、時間の縛りから脱することができた以上、すこしでもその余裕を行動的に使いたいものである。時間に余裕のできたサライ世代ならではの、密かな楽しみともいえる。
文/鈴木隆祐
監修/前刀禎明
【参考図書】
『とらわれない発想法 あなたの中に眠っているアイデアが目を覚ます』
(前刀禎明・著、鈴木隆祐・監修、本体1600円+税、日本実業出版社)
http://www.njg.co.jp/book/9784534054609/