写真・文/柳澤史樹
みなさんのおうちの食卓に、ぬか漬けはありますか? 私はぬか漬けが大好きなんですが、あの独特の匂いと、手入れが難しそうなイメージが先行し、これまでチャレンジせずにいました。
しかし「おだやか家」が開催するぬか漬けのクラス「今からはじめる発酵する暮らし☆ぬか漬け編」に参加し、念願の「ぬか漬け男子」デビューができました。そこで、まだチャレンジしたことのない方にも自家製ぬか漬けデビューのきっかけになってほしいと、ご紹介することにしました。
この講座は、女将のはるさんと、昨年惜しまれながら亡くなった青森県の福祉活動家、佐藤初女さんとの出会いと別れが大きなきっかけだったそうです。
「森のイスキア」という施設を主宰していた初女さんは、心を病んでしまったり、問題を抱えた人をあたたかく受け入れ、食事を共にすることでその人の心を癒やしていました。
そしてその食卓には初女さんが長年大事に育てた「ぬか漬け」があったのです。
はるさんはあるご縁により2014年に「森のイスキア」を訪れ、初女さんのぬか床を分けてもらったそうですが、初女さんが昨年亡くなったことを機に、「このぬか床を私のもとに留めず、皆さんにお分けしよう」とはじまったのがこの講座なのです。
■ぬか床の中はもの凄い数の微生物が生きている小宇宙
初女さんのような方が愛をもってそれを大事に育て、それがさらに床分けされることで、またその愛のあふれる小宇宙が広がり……というロマンを感じるストーリーですよね。
さて、いよいよレクチャーの開始です。まず最初に教わるのは「発酵と腐敗」の違い。
発酵は「人間にとって有益に作用するもの」、腐敗は「有害に作用するもの」という定義ですが、これはあくまでも人間目線であり、菌たちにとっては自分の役割を果たしているだけにすぎないとのこと。
保存性を高め、栄養価を高め、免疫力を高める、といいとこづくしの発酵は、微生物たちそれぞれの役割があり、それをバトンリレーしていくことで進むのだそうです。
次ははるさん自作のボードを使って、微生物たちの特徴についてのレクチャー。酸素を好む菌、嫌う菌がそれぞれぬか床には存在するため、定期的に天地返しをしてあげることがぬか床の状態を良くするポイントなのだそう。
だからぬか床はかき混ぜるのか、なるほどなるほど……と、膝を打つ感じです。
さらに漬ける野菜についても勉強。キュウリやかぶなどが一般的なぬか漬けですが、なんとアボカドやピーマン、キノコやはたまた豆腐まで、たくさんの素材がぬか漬けにできると聞いて驚きました。
講義が終わるといよいよぬか床づくりです! 作業自体はとても簡単。まず生ぬかと塩をよく混ぜ合わせ、そこに水を注ぎ空気を入れるように馴染ませていきます。しっとりしたところに、はるさんの熟成したぬかを加え床分けの完了。微生物たちが融合する瞬間です。
そして防腐、殺菌効果のために山椒や鷹の爪、さらに旨味を出すための昆布を加えてぬか床が完成しました!
参加者の皆さんは完成したぬか床を持ち帰り、ここから毎日の“お世話”がはじまります。ぬか床を熟成させ、本漬けに入れば、毎日の食卓に美味しいぬか漬けが並べられるようになります。
ぬか床は無数の微生物がいきる生命体そのもの。菌たちのバランスを保つためには日々のお手入れは欠かせません。私のように毎日、床をかき回す喜びに目覚めたぬか漬け男子の誕生が待たれます(笑)
みんなで楽しくぬか床を作ったあとは、いよいよお待ちかねのお昼ごはん。はるさんのぬか床から、定番のニンジンやナスに混じって、えのきやエリンギ、じゃがいも、ダイズやこんにゃくなどが登場するたびに、みんなの歓声があがります。
さあ、ご覧ください。このぬか漬けの見事さを!
こんなたくさんのぬか漬けを、これまで生きてきて見たことがありませんでした!
しかしこうして見ると、漬物は決して箸休めではなく、立派なおかずなのですね。「ぬか漬け=茄子、キュウリ、カブ」といった固定観念をドカーンとぶち壊すラインナップに、驚きと感動を味わい、とても豊かな時間を過ごせました。
個人的には、今回初めて食べたダイズのぬか漬け、またアボカドのぬか漬け、さらにリンゴのぬか漬け、ホントーにウマかった! ぬか床をお持ちの方は、ぜひ騙されたと思ってやってみてほしいです。
この「今からはじめる発酵する暮らし☆ぬか漬け編」、次回は4月7(金)・22日(土)に開催。定員8名と少人数での開催なので、ピピッと来た方はおだやか家のサイトから予約をしてみてください。
醤油や味噌、ぬか漬けをはじめとする発酵食品は、今でこそ健康にいいと話題になっているものの、元は日本に古くから伝わってきた伝統食です。
仲良く共生し、常に変化しつづけながら自然の流れにしたがってありのままに発酵する微生物の生き方は、実は日本人が最も忘れがちで、今一度見習わねばならないポイントなんじゃないか、とまで感じます。
これまでこの連載では、醤油、味噌、ぬか漬けを自分のお家で作ることをオススメしてきました。ぜひみなさんもチャレンジしてみてはいかがでしょう。
ふだん何気なく食べているものを自分らで作ることが、こんなにもおいしく、安全で、楽しく、豊かな気分になることにビックリされること間違いありません。
いよいよ3月。農閑期が終了し、畑に出る季節がやってきました。次回からはそろそろ畑のレポートもしていきたいと思っています。
【おだやか家】
■住所/神奈川県相模原市緑区与瀬194
■アクセス/JR中央本線「相模湖駅」から徒歩約10分
http://odayakaya.com/
写真・文/柳澤史樹
フリーライター/ 自分史アドバイザー。歴史を楽しむ情報サイトや企業ファンサイトのマネージメント、ビジネスコンセプトやコピーの執筆、多数の著名人取材などの他、現在は一般社団法人 自分史活用推進協議会認定 自分史活用アドバイザーとして、個人の軌跡を残す「自分史」を活動の軸とする。2016年暮れ、地元横浜から相模原市緑区へ引越し、農的暮らしと執筆生活の両立へシフトチェンジ中。