世界的に有名なベトナム刺繍。民族衣装に施された刺繍も美しいが、アートとしての価値も高く、国内外のコレクターが刺繍の盛んなダラット中部を訪れる。
なかでも展示作品が数多いダラットの「XQ刺繍センター」は、連日多くの人で賑わっている。
■細かい作業に驚き!ベトナム刺繍の名品展示を拝見
ダラットの市街から少し北に向かうと、古い瓦が美しい二階建ての「XQ刺繍センター」の建物が見えてくる。だいぶ古いのか、ところどころ傾ているようだ。
ここは、ベトナム全国に支店を持つ、刺繍アート専門店の本店が運営するベトナム刺繍の展示博物館。もちろん、作品も購入できるが、まずはベトナム刺繍とはどんなものか見ていきたい。
古民家のような外観からは想像できないほど、内部は現代美術館のようなモダンな造り。壁一面に動物や風景、花などをモチーフとした刺繍作品が展示されている。
館内はやや暗いが、作品に近づいてみると、その細かい作業に驚く。遠目で見ると油絵タッチのような紅葉の刺繍もあれば、今にも動き出しそうなリアルなヒョウの刺繍も。大きな作品は、数か月かけて何人もの女性が一緒に作業することもあるそうだ。
数々の展示なかでも私が感動したのは、裏表どちらからでも鑑賞できる作品。花をモチーフにした美しい連作の向こう側が透けて見えるので、裏に回ってみると裏表対象になっていた。これは片面だけの刺繍よりも、高い技術が必要で根気もいるのだそう。
ガイドさんによると、ベトナム女性は家事や子供の教育だけではなく、自分の手でお金を稼げるようにと、親が小さいころから刺繍を教えていたそうだ。最近では刺繍よりも、パソコン教育などに熱心な親が多いというが、もし夫が先に亡くなってしまっても、しっかりと生きていけるように…という親心なのだろう。
なるほど、市場などでせっせと働く女性たちに比べて、路上でゲームで盛り上がる、あまり働かないおじさんたちをよく見かけるのは、そういう理由かもしれない。
■実演はいくら見ていても飽きない
展示館を出ると、中庭に続く階段の両側に昔ながらの建物が建っていて、刺繍センターのなかというより、街の路地に迷い込んだかのようだ。
古い街を訪れたような気分で楽しくなるが、それぞれの部屋にも入ってみよう。大型の刺繍や作品に使われている糸を展示していたり、実演を見られる部屋もある。ひと針、ひと針、丁寧に作業している様子は、いくら見ていても飽きない。
中庭に出ると大きな樹があり、その木陰にはテーブルとイスが用意されている。お茶や軽食を頼むこともできるカフェもあり、騒々しい街中よりもゆっくりできる。
なぜか、仏陀の頭が池のまわりに置かれていたり、不思議な木の彫刻が飾られていたり、はたまたアウサン・スーチーさんなど、世界の偉人たちの歴史の展示館など、刺繍に関係ない展示もあるが、時間に余裕のある人は見ていくといいだろう。
次回はダラット郊外の素晴らしい渓谷美を紹介しましょう。
【XQ刺繍センター】
■住所/258 Mai Anh Dao Street.,Da Lat
■電話番号/063-3831-343
■営業時間/8:00-17:30
■休業日/無休
■入場料/無料
取材・文/白石あづさ
旅ライター。地域紙の記者を経て、約3年間の世界旅行へ。帰国後フリーに。著書に旅先で遭遇した変なおじさんたちを取り上げた『世界のへんなおじさん』(小学館)。最近は世界中で食べた珍しい動物の肉を取り上げた『