文/濱田浩一郎

三好長慶公像。

信長暗殺を企てた美濃斎藤氏の刺客の運命は?

大河ドラマ「豊臣兄弟!」において羽柴秀吉・秀長の主君・織田信長は小栗旬さんが演じています。信長は永禄11年(1568)に足利義昭を奉じて上洛したことはよく知られていますが、実はそれ以前にも都に上ったことがありました(その事はドラマの初回でも描かれていました)。

それは永禄2年(1559)のこと。『信長公記』(信長の家臣・太田牛一が著した信長の一代記)には、その際、信長は80人のお供を連れていたとあります。一方、戦国期の公家・山科言継は「五百」(『言継卿記』)の人々を信長は引き連れていたと日記に書いていました。人数に食い違いがありますが、おそらく、五百人というのは従者を含めた人数ということでしょう。

『信長公記』は、信長が上洛した時、その命を狙う者があったと記述します。それは信長と敵対する美濃国の斎藤義龍が放った刺客でした。しかし刺客の存在は、丹羽兵蔵により信長に告げられます。その翌日、都において刺客と対面した信長は刺客らを「けしからん」と叱りつけ、ギャフンと言わせたとのことです。こうしたことが本当にあったか否かは分かりませんが、ユニークな逸話ではあります。

信長の上洛に関する逸話は『翁草』(江戸時代の随筆。京都町奉行所の与力を務めた神沢杜口が著者)にも収載されています。同書によると、信長は永禄4年(1561)正月に熊野参詣と偽って、近臣8人を連れて密かに上洛したとのこと。その頃、将軍(当時は13代・足利義輝)の武威は衰え、三好長慶が実権を握っていたと同書は記します。信長はそうした都の有様を知り「三好に頼らなくては大功はなり難し」と感じたといいます。

その頃、三好氏は河内国の城にいたので、信長は堺に下ることになります。暫く堺の町人の家に滞在していたとのことですが、『翁草』にもまた信長を暗殺せんとした者の存在が記されています。それは『信長公記』に記述されていたのと同じく、美濃斎藤氏の刺客でした。斎藤氏は12人の侍を旅人に仕立て、堺に潜入させて、信長殺害を図ったのです。

しかし、これまた刺客の存在は信長にバレてしまいます。ちなみに『翁草』には丹羽兵蔵の名は出てきません。刺客の存在を知った信長は大胆な行動に出ます。刺客の旅宿へ押しかけて行ったのです。突然のことに刺客はびっくり仰天。慌てふためく刺客を尻目に信長は「言語道断の奴原。成敗してくれる」と激怒。「金剛夜叉」が荒れ狂ったような信長の姿に刺客は肝を潰し、美濃国に逃げ帰ったといいます。

三好長慶は信長となぜ組まなかったのか?

さてその後、信長は河内国にて三好長慶と対面すべく、高屋城に向かいます。信長は三好方に対し「尾張国の領地を三好家に進上したい。しかしその替え地を畿内に頂戴したい。また許しがあれば譜代の士卒5千人をもって、三好殿の先陣を仕りたい」と申し出るのでした。三好長慶はこの申し出を聞き、信長は「勇士」であるので、是非とも味方にしたいと考えます。ところが側にいた松山謙斎と松永久秀が「昨年の桶狭間合戦は申すに及ばず、信長の所行は只人ではありません。よって信長と結べばかえって禍いになりましょう」と長慶を諌めるのでした。諫言を聞いた長慶は信長と結ぶことをしませんでした。よって信長は虚しく尾張に帰ったと『翁草』にはあります。

これも事実とは考えられませんが、興味深い逸話ではあります。松山謙斎と松永久秀は信長が只人ではないからこそ、三好が信長と結ぶのは良くないと主張していました。何れ三好家が信長に呑み込まれてしまうと危ぶんだのでしょうか。

信長は宣教師ルイス・フロイスの著作『日本史』において「彼(信長)は日本のすべての王侯を軽蔑し、下僚に対するように肩の上から彼らに話をした」と評されるような人物でした。それに比べて、『翁草』の先程の信長は「三好に頼らなくては大功はなり難し」などと言い、随分と神妙です。ちなみに『翁草』は信長上洛の訳を「尾張は辺国。京都の対策には都合が悪い。何とかして上方に乗り出したい」と信長が考えたからだとしています。信長が三好家に畿内における替え地を要求したのも上方に乗り出したいという信長の野心からということになります。

文/濱田浩一郎(はまだ・こういちろう)

兵庫県相生市出身。皇學館大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得満期退学。
兵庫県立大学内播磨学研究所研究員、姫路日ノ本短期大学講師、姫路獨協大学講師、大阪観光大学観光学研究所客員研究員を歴任。現在、武蔵野学院大学日本総合研究所スペシャルアカデミックフェロー。
著書『播磨赤松一族』(新人物往来社)、『あの名将たちの狂気の謎』(中経の文庫)、『超口語訳 方丈記』(東京書籍のち彩図社文庫)、『中学生からの超口語訳 信長公記』(ベストブック)、『秀吉と秀長 天下統一の軌跡』(内外出版社)その他多数。

 

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