参議雅経『百人一首画帖』より
(提供:嵯峨嵐山文華館)

参議雅経(さんぎまさつね)は、本名を藤原雅経といい、1170年から1221年まで生きた平安時代末期から鎌倉時代前期の公卿・歌人です。若き日、父・藤原頼経が源義経に協力した罪で流罪となり、16歳から20歳まで苦難の時を過ごしました。雅経自身も鎌倉に送られましたが、和歌と蹴鞠の才能により源頼朝に認められ、人生が好転します。特に蹴鞠では「蹴鞠長者」と称えられるほどの名手でした。

28歳で後鳥羽院に仕え、従三位参議にまで昇進。『新古今和歌集』の撰者の一人に選ばれ、同集に26首が収録されています。藤原俊成に和歌を学び、定家とも親交が深く、後鳥羽院歌壇の中心歌人として活躍しました。

飛鳥井流蹴鞠の祖として、また能書家・篳篥(ひちりき)の名手としても知られ、京都と鎌倉の文化交流に大きく貢献した多才な人物でした。

参議雅経の百人一首「み吉野の~」の全文と現代語訳

み吉野の 山の秋風 さ夜ふけて ふるさと寒く 衣(ころも)うつなり

【現代語訳】
吉野の山の秋風が吹き渡り、夜も更けてきて、(かつて都があった)この吉野の里は寒々としている。どこからともなく、衣を打つ砧(きぬた)の音が寒々と響いてくることだ。

『小倉百人一首』94番、『新古今和歌集』483番に収められています。

この歌の最大の魅力は、「聴覚で感じる寒さ」 です。「秋風」や「夜ふけて」という言葉で肌寒さを表現するのは一般的ですが、雅経はそこに「衣うつなり」 という音を持ってきました。

「衣を打つ」とは、布を柔らかくしたり艶を出したりするために、木の台(砧)の上で布を木槌で叩く作業のこと。静まり返った夜の吉野の山里に響き渡る音が、寒さをより一層引き立てているのです。

ここでいう「ふるさと」は、自分の故郷という意味ではなく、古く都があった場所「古京」を指します。この意味で用いられる場合、荒れ果てた地というイメージが込められます。

また、この歌は「本歌取り」の技法が使われています。元となった歌は『古今和歌集』にある坂上是則の歌。

「み吉野の 山の白雪 つもるらし ふるさと寒く なりまさるなり」
(吉野の山に白雪が積もっているらしい。だから古い都である吉野の里は、ますます寒くなっているようだ)

是則の歌は「雪」(視覚)で寒さを詠みましたが、雅経はそれを「秋風」と「衣打つ音」(聴覚)に変化させ、より情緒的で孤独感の漂う世界を作り上げました。

参議雅経『百人一首画帖』より
(提供:嵯峨嵐山文華館)

参議雅経が詠んだ有名な和歌は? 

参議雅経が詠んだ代表的な歌を紹介します。

うつりゆく 雲に嵐の 声すなり 散るかまさきの かづらきの山

【現代語訳】
葛城山を見わたせば、嵐に吹かれ、雲が移動してゆく。その雲の中から、激しい風の音が聞こえてくる。岩に絡みつく正木の葛も散っているだろうか。

『新古今和歌集』561番に収められています。詞書には「春日社歌合に、落葉といふことをよみてたてまつりし」とあり、多くの秀歌選に採られた、雅経の代表作です。のちに本居宣長が『美濃の家づと』で「いとめでたし、詞めでたし」と絶賛しています。

参議雅経、ゆかりの地

参議雅経のゆかりの地を紹介します。

白峯(しらみね)神宮

京都市上京区にあります。ここは「まりの神様」として有名で、サッカー選手などが必勝祈願に訪れることで知られています。なぜなら、この神宮の地こそが、飛鳥井家の邸宅跡だからです。

雅経を始祖とする飛鳥井家は、代々蹴鞠の師範としてこの地に住み、蹴鞠の伝統を守り続けました。境内には「精大明神」(せいだいみょうじん)という蹴鞠の神様が祀られており、蹴鞠をする「鞠庭」(まりにわ)や「蹴鞠の碑」もあります。横にはめこまれた「撫で鞠」をひと廻しすると球技が上達するといわれています。

最後に

現代の私たちの生活では、「衣を打つ音」を聞くことはありません。しかし、夜更けに聞こえる虫の声や、風が窓を叩く音に、ふと寂しさや懐かしさを感じる瞬間はあるはずです。

雅経が生きた時代も現代も、ふと感じる「人恋しさ」や「静寂の美しさ」は変わりません。

忙しい日常から少し離れ、夜の静けさに耳を澄ませてみる。そんな心の余裕を持つことこそが、私たち大人の特権であり、人生を豊かにする秘訣ではないでしょうか。

※表記の年代と出来事には、諸説あります。

引用・参考図書/
『日本大百科全書』(小学館)
『全文全訳古語辞典』(小学館)
『原色小倉百人一首』(文英堂)

アイキャッチ画像/『百人一首かるた』(提供:嵯峨嵐山文華館)

●執筆/武田さゆり

武田さゆり

国家資格キャリアコンサルタント。中学高校国語科教諭、学校図書館司書教諭。現役教員の傍ら、子どもたちが自分らしく生きるためのキャリア教育推進活動を行う。趣味はテニスと読書。

●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com

●協力/嵯峨嵐山文華館

百人一首が生まれた小倉山を背にし、古来景勝地であった嵯峨嵐山に立地するミュージアム。百人一首の歴史を学べる常設展と、年に4回、日本画を中心にした企画展を開催しています。120畳の広々とした畳ギャラリーから眺める、大堰川に臨む景色はまさに日本画の世界のようです。
HP:https://www.samac.jp

 

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