はじめに―東洲斎写楽とはどのような人物だったのか

東洲斎写楽(とうしゅうさい・しゃらく)は、江戸時代後期に活動した浮世絵師です。しかし、活躍したのはわずか10か月。その間に発表した浮世絵は140点以上です。

あまりにも短く、あまりにも鮮烈だったため、彼の正体はいまだ「謎」のままとされ、多くの仮説が語られてきました。

本記事では、東洲斎写楽の作品と足跡、そして時代背景から彼の魅力に迫ります。

2025年NHK大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』では、謎の絵師として描かれます。

写楽

東洲斎写楽が生きた時代

東洲斎写楽が活動したのは、寛政6年(1794)5月から翌年正月までの短期間。当時の江戸は、蔦屋重三郎(つたや・じゅうざぶろう)をはじめとする出版文化の隆盛期にあり、浮世絵や黄表紙など多様なメディアが町人文化を彩っていました。

一方で、松平定信による「寛政の改革」により、風俗や出版への統制も強まっていた時期でもあります。そんな中で、写楽は役者絵の世界に突如として現れ、伝統的な美化を拒む、写実的かつ心理的な表現で一石を投じたのです。

東洲斎写楽の生涯と主な出来事

東洲斎写楽の生没年は不詳です。写楽の生涯の一部を、残されたわずかな情報を元に見ていきましょう。

浮世絵界に突如登場

写楽の作品が世に出たのは、寛政6年(1794)5月。当時の歌舞伎狂言に取材した役者絵で、版元はあの蔦屋重三郎。喜多川歌麿(きたがわ・うたまろ)や十返舎一九(じっぺんしゃ・いっく)を育てたように、蔦重の炯眼なればこそ発掘できた異色の新人です。

デビュー作は黒雲母摺(くろきらずり)による豪華な大判役者大首絵28枚で、画面には「東洲斎写楽画」の落款が記されています。

彼の作品は、理想化された従来の役者絵とは異なり、誇張を交えた似顔表現と、役者の心理をもとらえるリアルさが特徴でした。

蔦屋重三郎

全4期にわたる作画活動

写楽の作画期は取材狂言の上演時期に合わせて、以下の4期に分類されます。

東洲斎写楽 画『写楽名画揃』,好古堂,明36.12.
国立国会図書館デジタルコレクション
https://dl.ndl.go.jp/pid/2533724

第1期(寛政6年5月)

大判の役者大首絵28枚(黒雲母摺)。最も評価が高い作品群であり、画風の革新性が際立つ。

第2期(同年7〜8月)

全身像が中心の計38枚(うち大判雲母摺8枚、細判30枚)。やや大衆向けへと移行。

第3期(同年11月〜閏11月)

計64枚。細判役者絵、相撲絵、大判の三枚続など、表現の幅を広げるが、作品の質は下降傾向に。

第4期(寛政7年正月)

計12枚で活動終了。以後、消息は途絶える。

これらを含め、写楽の版画は142点以上にのぼり、そのすべてが蔦屋重三郎による出版です。

忽然と消えたその後

写楽は寛政7年(1795)正月以降、浮世絵界から姿を消し、正体も明かされないまま消息を絶ちました。その後、彼をめぐっては「阿波徳島藩お抱えの能役者・斎藤十郎兵衛説」「葛飾北斎説」など、30人以上の人物が「写楽の正体」として取り沙汰されてきました。

近年では、江戸八丁堀の地蔵橋に住んでいた「写楽斎」なる人物の存在が確認され、斎藤十郎兵衛=写楽説が再注目されています。もしこの説が正しければ、写楽は宝暦13年(1763)生まれで、写楽として登場したときには32歳前後だったと推測されます。

まとめ

写楽の画風は、従来の理想化を拒み、役者の人間性や演技の内面までも描き出す、革新的なものでした。ですがそれゆえに、役者やファンの不評を買い、10か月での活動終了につながったともいわれています。

しかし、現代では、その写実性と表現力が再評価され、日本のみならず欧米でも高く評価される存在となりました。「謎の絵師」として語られる写楽の名は、わずか10か月の活動で浮世絵の歴史に深い足跡を残したのです。

※表記の年代と出来事には、諸説あります。

文/菅原喜子(京都メディアライン)
肖像画/もぱ(京都メディアライン)
HP:http://kyotomedialine.com FB

引用・参考図書/
『日本大百科全書』(小学館)
『世界大百科事典』(平凡社)
『日本人名大辞典』(講談社)
『国史大辞典』(吉川弘文館)
『新版 日本架空伝承人名事典』(平凡社)

 

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