決して、人生「順風満帆」とは行かぬものです。若い頃と違って、壮年期を過ぎてからの不幸な出来事や災難は、精神的にも大きなダメージとなります。

そんな時でも、顔を上げ、前に進まなければならないのが人生ではないでしょうか? 何気ない友人や知人が掛けてくれた言葉が、深く傷を負った心を癒し、勇気づけてくれる場合もございます。

また、先人が残した言葉を紐解けば、いくつもの教訓や悟りが残されており光明(こうみょう)となることもあります。

そんな言葉の一つとなることを願い、今回の座右の銘にしたい言葉は「生生流転」(しょうじょうるてん・せいせいるてん)を紹介します。

「生生流転」の意味

「生生流転」について、『⼩学館デジタル⼤辞泉』では、「万物が限りなく生まれ変わり死に変わって、いつまでも変化しつづけること」とあります。「生生」は、生まれては消え、消えては生まれることの繰り返しを表し、「流転」は、水が流れるように移り変わっていくさまを表現した言葉です。この世のすべてのものは、一瞬たりとも同じ状態にとどまることなく、常に変化し続けているという意味を持ちます。

私たちの周りを見渡せば、季節の移ろい、植物の成長と枯死、人の誕生と死、社会の発展と衰退など、これらすべてが「生生流転」の表れです。昨日と同じ日は二度と来ない。同じ自分も二度と存在しない。そう考えると、一瞬一瞬がかけがえのないものであり、同時に、過去に囚われることなく、未来へと歩みを進めることの重要性を教えてくれます。

「生生流転」の由来

この言葉は仏教用語である「諸行無常」(しょぎょうむじょう)の思想と深く結びついています。「諸行無常」とは、「この世のすべてのものは、常に移り変わり、とどまることがない」という意味です。万物は変化し、永遠不滅なものは何一つない、という教えですね。

この「諸行無常」の思想が、特に生命の誕生と死、そしてその連続性を強調する形で表現されたのが「生生流転」です。仏教では、生きとし生けるものは、「輪廻転生」(りんねてんしょう)という、生まれ変わりを繰り返すという考え方があります。この輪廻のサイクル、つまり「生じ、滅び、また生じる」という連続性を指す言葉として、「生生流転」が使われるようになりました。

例えば、鴨長明の『方丈記』にある「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」という一節は、まさに「諸行無常」ひいては「生生流転」の思想を象徴する言葉として知られています。

「生生流転」を座右の銘としてスピーチするなら

この言葉は決して「諦め」や「無力感」を表すものではありません。「どうせ変わるから」と投げやりになるのではなく、「変化こそが人生を豊かにする」という前向きな姿勢を示すことが大切です。以下に「生生流転」を取り入れたスピーチの例をあげます。

変化を恐れないことの大切さを語るスピーチ例

私の座右の銘は「生生流転」です。すべてのものは移り変わり、絶えず変化し続けるという意味です。若い頃の私は、変化を恐れる人間でした。安定こそが善であり、一度手に入れたものを失うこと、環境が変わることを極端に嫌っておりました。新しい技術が導入されるたびに、「また覚え直しか……」とため息をつき、定年後も「もう新しいことなど覚えられるものか?」と、惰性で日々を過ごそうとしていた時期もありました。

しかし、孫が小学校に入学するのを見て、ふと気づかされたのです。毎日、新しいことを学び、新しい友達と出会い、みるみるうちに成長していく孫の姿は、まさに「生生流転」そのもの。

そこで私は、長年やろうと思って果たせなかった陶芸教室に通い始めました。最初は思うように手も動かず、失敗ばかり。しかし、土が器へと「変化」していく過程を体験するうちに、私自身の心にも変化が訪れました。失敗しても、また新しい土からやり直せばいい。形が変わっても、それはそれで新しい発見がある。そう思えるようになったのです。

人生は、決して同じ場所に留まることはありません。健康、仕事、家族関係、そして私たち自身の心も、常に移り変わっていきます。その変化を悲観するのではなく、「また新しい自分に出会えるチャンスだ」と、前向きに受け入れることが大切だと感じています。

最後に

この言葉は、移ろいゆく人生のすべてを肯定し、私たちに「今、この瞬間」を大切に生きること、そして変化を恐れずに新しい自分を受け入れる勇気を与えてくれます。過去を懐かしみつつも、未来への希望を抱くサライ世代の皆様にとって、「生生流転」は、まさにこれからの人生の道標となるに違いありません。

●執筆/武田さゆり

武田さゆり

国家資格キャリアコンサルタント。中学高校国語科教諭、学校図書館司書教諭。現役教員の傍ら、子どもたちが自分らしく生きるためのキャリア教育推進活動を行う。趣味はテニスと読書。

●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com

 

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