厚生労働省が2023年に発表した『令和4年簡易生命表』によると、男の平均寿命は 81.05 年、女の平均寿命は87.09年だった。いずれも前年と比較して男は 0.42年、女は0.49 年、平均寿命が短くなっている。とはいえ、人生は長い。60歳で定年退職した場合、20年以上の余生がある。これをどう過ごすかが問題だ。

「定年後ってそんなに金は要らない。子供もいないし、欲望だってない。そういうことを考えると、ほどほどに長く稼げて、楽なところがいいと思い、シルバー人材センターに登録してから、人生が変わった」とは東京郊外に住む仁志さん(70歳)だ。60歳で勤務していた建設会社を定年退職し、介護用品リース会社でシルバー人材として働いていたが、現在は「お坊さん」としての肩書も加わった。

男社会の中で一生を過ごしてしまった

仁志さんは東京市部で生まれ育つ。地方国立大学の工学部を卒業してから、ある建設会社に定年まで勤めあげた。そして現在はお坊さんとして、あるお寺の手伝いをしている。お寺の家に生まれ育ったのだろうか。

「全然。サラリーマン家庭ですよ。仏教に興味を持ったことがなかった。幼い頃に興味を持ったのは野球。小学校のときは少年野球チームに入り、夢中になりました。監督やコーチに殴られながら、必死でボールを追いかけるのが楽しかった。当然、レギュラーにも補欠にもなれずに、小学校を卒業しました」

その後、スポーツと決別し、「やることがないから」勉強をするように。都立の進学校から、名門地方国立大学の工学部に進学し、大手建設会社に入社する。

「ずっと男だらけ(笑)。高校も男子7割で、3年間男子クラスでした。女子と話したことなど数えるほどしかないまま大学に入ったら、ここもまた男だらけ。会社に入ってもそう。女性のことが全くわからないんです。本当は結婚したくなかったのですが、30歳の時に上司のすすめで一度結婚しましたが、5年で別れてしまった。相手の方(元妻)から“察してよ!”とか“私のことを好きなの?”などと言われると、何て返していいかわからず、口をつぐんでうつむいているだけでした」

そのうちに妻は実家に帰ってしまう。「無視もまた暴力だ」と言われたことが、今でも心に残っているという。

「無視というか……女性の怒る顔を見ると、怖くて言葉がでなくなっちゃうんです。あと、相手の思い通りに行動しないと怒られるのも苦手でした。困ったのはなんかの恋愛映画に連れていかれたのですが、なんでそんなに泣いたり叫んだりしているのか、さっぱりわからない。みんなが泣いている感動的なシーンのところがあったのですが、僕にはそれが滑稽で笑ってしまったんですね。それに相手の方が激怒して、結局ジ・エンド。相手の方には興味がなかった。流されてしまって、悪いことをしたと思っています」

両親は残念がっていましたが、妹が離婚するだのしないだのですったもんだしていたので、長男・仁志さんの離婚どころではなかったという。

「独身になってから、本当に身軽で楽しかった。僕は人と住む生活が耐えられないんですよ。時々彼女はいましたが、みんな向こうから去って行った。家族がいないから、何時まででも仕事ができるし、海外勤務もできる。女性と遊びたくなれば、お金を払ってそういうところに行けばいいだけの話ですから」

【妻帯していないと、役員にはなれなかった……次のページに続きます】

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