
ライターI(以下I)『豊臣兄弟!』のキャスト発表が断続的に行なわれていますが、森蘭丸を市川團子(だんこ)さんが演じることが発表されました。香川照之さんの長男です。
編集者A(以下A):香川照之さんといえば、1989年の大河ドラマ『春日局』が大河デビュー作。小早川秀秋を演じました。初登場時には、鷹狩で得た獲物を主人公のおふく(後の春日局/演・大原麗子)に投げ渡す場面が見られました。関ヶ原合戦の際の稲葉正成(演・山下真司)とのやり取りは見ごたえのある圧巻シーンでした。合戦後の表情は「紅顔の若武者」という感じで印象深いものでした。
I:小早川秀秋といえば、秀吉の姉・とも(演・宮澤エマ)の息子。『豊臣兄弟!』でも登場すると思われます。さて、森蘭丸を演じる市川團子さんは、父と同じ「戦国大河」に登場するわけですね。いったいどんな演技で視聴者を魅了してくれるのでしょうか。
A:実は、香川照之さんの実母・浜木綿子さんも1965年の『太閤記』に念仏踊りをする姉妹の姉・おふくとして出演しています。まだ信長に仕官する前の藤吉郎(演・緒形拳)の進路に影響を与えるわりと重要な役だったようです。残念ながら当時の映像は残されていないのですが、3世代にわたって大河ドラマに出演することになります。
I:市川團子さんが、森蘭丸を演じるにあたりコメントを寄せてくれていますね。
まさか私が大河ドラマに出演させていただくとは思ってもいませんでした。これまで数々の皆様が魅力的な森蘭丸像を創造されてきました。また、大河ドラマで初めて森蘭丸を演じたのは、歌舞伎役者の先輩でもある片岡仁左衛門さんです。歴代の蘭丸に恥じぬよう、自分なりの蘭丸をしっかりと演じられるよう、精一杯務めたいと思いました。
A:市川團子さんが言及した片岡仁左衛門さんが森蘭丸を演じたのは、1965年の『太閤記』。当時は「片岡孝夫」を名乗っていました。この頃は、マスターテープに上書きして再利用していたということで、映像がほとんど残っていない作品があります。『太閤記』もNHKオンデマンドで視聴できるのは、本能寺の変を描いた第42回のみです。
I:なるほど。国民的番組となった大河ドラマにして映像が残っていない時代があるのですね。よっぽどマスターテープが高価で貴重だったんですね。
A:1965年の『太閤記』の本能寺の変ですが、今となっては、「大河ドラマの古典 本能寺の変」といっても過言ではありません。なんとも悠長に時が流れているのが印象的なのです。なにやら本能寺の外が騒がしいので、信長が、森蘭丸に外の様子を見にいかせます。帰ってきた森蘭丸が「光秀さま謀反にございます」と報告すると信長は、「はははは」と破顔一笑し、「光秀はそんなバカ者ではない」と信じようとしないという展開になります。この時、片岡孝夫さん21歳。すでに61年の歳月が流れています。
I:都度都度、特番などで過去作の「本能寺の変」の映像が放送される機会があったりしますが、1965年『太閤記』の本能寺の変と2006年『功名が辻』の本能寺の変は、違う事件を描いているのかというほど違いますよね。そうした比較も楽しかったりします。
A:『功名が辻』では、織田信長を舘ひろしさん、森蘭丸を渡辺謙さんの息子渡辺大さんが演じました。舘さんの信長は、本能寺で銃を手に取り、明智軍と戦います。エキセントリックな信長、型破りな本能寺の変は大河ファンの度肝を抜きました。そのほか歴代の森蘭丸については、市川團子さんの登場段階で言及したいと思いますが、浜木綿子→香川照之→市川團子という3世代にわたって「戦国大河」に出演するというのと同じく「3世代で大河出演」となったのが「緒形家」です。
I:はい。1965年『太閤記』で豊臣秀吉を演じた緒形拳さんの孫で、1992年『信長 KING OF ZIPANGU』で織田信長を演じた緒形直人さんの長男である緒形敦さんが『豊臣兄弟!』で織田信澄役を演じることが発表されました。
A:緒形拳さんといえば、9作の大河ドラマに出演したレジェンド俳優です。『太閤記』と『峠の群像』(1982年)の大石内蔵助役で2度の大河ドラマ主演を担っただけではなく、『源義経』(1966年)で武蔵坊弁慶、『風と雲と虹と』(1976年)では藤原純友、『黄金の日日』(1978年)では豊臣秀吉を再演、『太平記』(1991年)では主人公足利尊氏の実父・足利貞氏という重要な役を演じました。さらに『毛利元就』(1997年)では尼子経久など、常に重要で骨太な人物を演じて大河ドラマファンを唸らせる存在であり続けました。
I:緒形拳さんの息子の緒形直人さんも『信長 KING OF ZIPANGU』で主演を演じました。「大河ドラマで親子で主演」というのはこの親子だけの偉業なんですね。
A:そして3代目ということになるわけですが、演出陣にとっても本人にとってもある種の「覚悟」が求められるキャスティングということになるのでしょう。なにせ、祖父も父も大河主演俳優。視聴者からは、「3代目の演技はいかに?」という視線が注がれるわけですからね。生半可な演技では納得させられないというプレッシャーがかかることになると思われます。
I:その緒形敦さんが演じるのは織田信澄。信長の弟・信勝(かつては信行とされることが多かった)の嫡男なんですね。つまり信長の甥ということになりますが、これまでの大河ドラマに登場したことはないようです。
A:信澄は、津田信澄という名の方が知られています。織田家の序列では、信長嫡男の信忠、次男信雄、三男信孝、信長弟信包(のぶかね)に次いで5番目という序列でした。加えて織田家家臣の中での出世頭を秀吉と争っていた明智光秀の娘を正室にしている「サラブレッド」なのです。
I:信長弟の信包は『江~姫たちの戦国~』で、小林隆さんが演じていて登場経験がありますが、これまで大河ドラマに登場したことがない信澄を「大河ドラマのレジェンド俳優の孫」がどのように演じるのか。
A:これは、ほんとうに注目ですね。

●編集者A:書籍編集者。かつて編集した『完本 信長全史』(「ビジュアル版逆説の日本史」)を編集した際に、信長関連の史跡を徹底取材。本業では、11月10日刊行の『後世に伝えたい歴史と文化 鶴岡八幡宮宮司の鎌倉案内』を担当。
●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好き。愛知県出身なので『豊臣兄弟!』を楽しみにしている。神職資格を持っている。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり











