久々に登場、新之介(演・井之脇海)。(C)NHK

ライターI(以下I):『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(以下『べらぼう』)の「第二幕」というか『後半戦』が始まりました。

編集者A(以下A):今週は蔦重(演・横浜流星)が商売のヒントを得るわけですが、「往来物」と言われるジャンルが紹介されました。それを蔦重に知らせる役回りがなんと新之介(演・井之脇海)とうつせみ(演・小野花梨)というのが、驚きでした。

I:吉原の女郎だったうつせみは新之助と足抜けする形で吉原から脱出をはかりますが、一度目は失敗します。その際に妓楼松葉屋の女将稲(演・水野美紀)に「夜鷹になるしかない」と脅されていましたが、俄まつりの喧騒にまぎれて再度足抜けをはかって、いまのところ逃げおおせているという設定でした。

A:一見、「ああ、足抜けできてよかったね」と思ってしまいがちですが、現実の吉原のシステムはそんなに甘くはありません。借金はそのまま残っているわけですから、おそらく、「吉原闇部隊」の面々が、うつせみの両親のもとを訪れて、厳しい取り立てに及んでいると思われます。

I:現実はもっともっと闇深いものだったんでしょうね。さて、それでも新之助、うつせみあらため「ふく」のふたりは、「往来物」を学んでもらうことで、人々の暮らしを向上させようとしているのでしょう。なんだか目頭が熱くなりますね。

A:さて、「往来物」ですが、教科書というか学習参考書というか、実用書というか、とにかく「学び」の書。歴史の教科書には室町時代から江戸時代にかけて一世を風靡した『庭訓往来』が有名ですが、蔦重のころもたくさん出版されていたようです。好奇心旺盛な日本人はすごいです。劇中にちらっと出た『五體名頭字』という往来物が映されました。漢字の書体などを一覧にした「学びの書」です。眺めているだけで楽しそうな本ですよね。

I:『初めての大河ドラマ~蔦重栄華乃夢噺~歴史おもしろBOOK』でも触れられていますが、この時代は、武家も商家も庶民もこぞって「学び」に熱心でした。まず読み書き。その上でいろいろな商売ができ、家を支えることができるようになる。蔦重が瀬川(演・小芝風花)に『女重宝記』を手渡す場面もあったりしましたが、このころの日本人の向学心、向上心は特筆すべきことだと思います。

A:身分にがんじがらめという時代でしたが、奉公先などで読み書きの才や知識があれば出世できる時代でもありました。家を継ぐ者はもちろん、次男以下もきちんと学んでいれば仕事ができ、いずれ奉公先からのれん分けをしてもらい、自分の店を持つことまでできたんですよね。蔦重なんかがまさにそうですよね。親と生き別れて、吉原で育てられましたが、耕書堂を立ち上げて、一時代をなす。きっと好奇心旺盛で向上心豊かな少年だったのでしょう。

I:江戸時代の日本人の生きざまをしっかり描いてくれたことになります。劇中では、「購買力」を見込んで地方の有力者に「往来物」の執筆を依頼する様子が描かれました。現代でも似たようなスタイルの刊行物はありますので、蔦重ってやはり先駆者なんですね。

A:劇中でも蔦重の耕書堂から刊行された『大栄商売往来』など、地方の商人絡みの「往来物」が登場していました。なんだか面白いなあと思ったのは、吉原の「忘八」親父らと交流のある蔦重の耕書堂から、商売で肝要なのは「孝悌忠信」という儒教の徳目であると大上段に掲げた書籍が刊行されたこと。「忘八」と対極ですからね。

I:それが儲かるっていうのなら、「やっちゃえ」ということなんでしょうね。

「御三家には後継ぎがいなかった」は事実か? 次ページに続きます

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