
日常会話をしていて、あるいは、文章を書いていて、「あれ、この日本語って合っているのかな?」と思ったことはありませんか。ライターの私ですら、そう思うことがたびたびあります。当然ですよね、言葉は時代とともに変化していくものですから。
NHK放送文化研究所主任研究員・塩田雄大さんの著書『ゆれる日本語、それでもゆるがない日本語』(世界文化社)では、NHKならではの徹底した調査を基にして、迷いがちな言葉についてその意味や現代での使われ方などを解説しています。
今回は、『ゆれる日本語、それでもゆるがない日本語』の中から、「とける」と「とろける」の使い分けについて取り上げます。
熱を加えるか、常温かで使い分けるのが一般的
Q:チョコレートが「とける」と「とろける」の両方耳にしますが、使い分けはあるのでしょうか。
A:一般に、熱を加えて液状になる場合には「とろける」、常温の場合では「とける」が用いられます。また、「とろける」は「おいしいもの、心地よいもの」に用いられることが多いようです。
食べものについての使い分け例
まず、「とろける」は基本的に食べものに使われることばで、「鉄・金」などについてはふつう「とろける」とは言いません。ここでは、食べものについての「とける/とろける」について見てみましょう。
・氷が[〇とける/×とろける]
・アイスクリームが[〇とける/×とろける]
・チーズが[△とける/〇とろける]
・刺身が口の中で[×とける/〇とろける]
ここから、「氷・アイスクリーム」のように常温で液状になってしまうものに対しては「とける」が用いられ、「チーズ・刺身」のように常温では固体だけれども熱(オーブン・口の中など)を加えると液体に(あるいは液体に近く)なるものには「とろける」が用いられることがわかります。
刺身の「トロ」は「口の中でとろける」ようだから「トロ」と言うのでしょう。
口の中で「とろけ」るような食べものは、だいたいおいしい場合が多いものです。さきほど「基本的には食べものに使われることば」と記しましたが、それ以外に、比喩的に「心地よいもの」に使われる場合も、よくあります。
・[×とける/〇とろける]ような甘い声
・[×とける/〇とろける]ような笑みがこぼれた
「とろける」は、「とける」に比べて情緒的・主観的な表現です。
「チョコレート」の場合、夏場は常温でも液状になってしまいます。そのような状況を客観的に描写したのであれば「チョコレートがとけた」であるし、「心地よいおいしさ」というニュアンスを強調するのであれば「口の中でチョコレートがとろけた」ということになるでしょう。
「とける・とろける」の問題、これできちんと解けたでしょうか。
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ゆれる日本語、それでもゆるがない日本語 NHK調査でわかった日本語のいま
著/塩田雄大
世界文化社 1,870円(税込)
塩田雄大(しおだ・たけひろ)
NHK放送文化研究所主任研究員。学習院大学文学部国文学科卒業。筑波大学大学院修士課程地域研究研究科(日本語専攻)修了後、日本放送協会(NHK)に入局。『NHK日本語発音アクセント辞典 新版』などに従事。2011年、博士(学習院大学・日本語日本文学)。著書に『現代日本語史における放送用語の形成の研究』など。2015年からNHKラジオ第1放送『ラジオ深夜便』「真夜中の言語学 気になる日本語」担当。『三省堂国語辞典』の編著者のひとりでもある。
