遥かなる大陸の中央や辺境、台湾からも、日本めがけて押し寄せている「ガチ中華」の波。勁(つよ)くて旨い未知なる味に、今こそ出会う。
亜熱帯の気候が育んだ酸辣や香辣が食欲をそそる
双椒蒸魚頭(シュワンジァオジョンユートウ)

湖南料理は中国一辛い料理といわれている。四川料理の花椒(ホアジアオ)と唐辛子による痺れるような辛さに対し、湖南料理は酸っぱく辛い酸辣(スワンラー)や、辛さの中に香ばしい風味がある香辣(シアンラー)が特徴だ。長江中下流に位置し、洞庭湖の南に広がる湖南省は、夏の高温多湿な気候のため唐辛子の辛みが好まれたことや、食用の唐辛子が使われた歴史が長いことから、その使用量も増えたと考えられる。唐辛子には強い旨みも秘められているのだ。
横浜中華街に店を構える『湖南人家』は、2022年湖南省出身の黄孝林(こうこうりん)さん・鄧娟(とうけん)さん夫妻が開店。「人家」とは、家庭料理という意味だ。さっそく名物料理の「双椒蒸魚頭(シュワンジァオジョンユートウ)」を注文する。魚の頭の蒸し料理で、赤と青の唐辛子を使った「刴椒(ドゥオジャオ)」が彩りよく盛り付けられている。「刴椒(ドゥオジャオ)」は刻んだ唐辛子と塩などで作る発酵唐辛子のことで、繊細な魚の味を酸味のある唐辛子が上品に仕立てている。現地では魚は湖の淡水魚を用いるが、日本では鯛で代用。目にも華やかな湖南料理である。
毛沢東が愛した豚の角煮
中華人民共和国の成立に尽力した湖南省出身の毛沢東が好んだことで知られるのが「毛氏紅焼肉(マオシーホンシャオロウ)」である。豚バラ肉の角煮で、激辛な湖南料理の中では珍しく甘みのある一品。この店では、下茹でした豚肉に、豆板醤や唐辛子、醤油、オイスターソースなどで作った自家製のタレを絡めて仕上げる。口に運ぶと八角の香りがふわりと広がり、白飯が欲しくなる。
毛氏紅焼肉(マオシーホンシャオロウ)

塩味の強い豚肉のベーコン「腊肉(ラーロウ)」を用いた料理もよく知られるところ。「湘西(シアンシー)腊肉」は大蒜(にんにく)の芽や人参、赤ピーマンと腊肉を手早く炒めた料理で、噛むごとに豚肉の燻製の旨みと唐辛子の辛さが口内を占拠する。辛いけれどやめられない、そんな旨さがあるのが湖南料理の真骨頂だ。
湘西腊肉(シアンシーラーロウ)



湖南人家

神奈川県横浜市中区山下町147
電話:045・681・1888
営業時間:10時~23時
定休日:不定 48席。
交通:横浜高速鉄道みなとみらい線元町・中華街駅から徒歩約5分
覚えておくと便利なガチ中華用語集

※この記事は『サライ』本誌2025年3月号より転載しました。

