文/鈴木拓也

写真はイメージです。

厚生労働省の最近の調査によれば、難聴の患者数は約1430万人にのぼる。国民の1割を超える人が、耳の聞こえで悩んでいるわけだ。

難聴の原因は様々だが、多いのは高齢になって生じる加齢性難聴。75歳以上だと、半数がこの病気にかかっている。

難聴による不都合は、単に人の話し声が聞き取りにくくなるというだけではない。脳に伝わる刺激・情報が減って認知機能が衰え、認知症にかかるリスクもある。

この厄介な症状を、補聴器を用いて改善しているのは、新田清一医師(宇都宮病院 耳鼻咽喉科 主任診療科長・聴覚センター長)。「宇都宮方式」と呼ばれ、学会でも注目を集めている療法により、患者が満足のいくレベルの改善率は、なんと96%だという。

その新田医師が、このたび上梓したのが書籍『改訂版 難聴・耳鳴りの9割はよくなる 脳を鍛えて聞こえをよくする「補聴器リハビリ」』(世界文化社 https://books.sekaibunka.com/book/b10107753.html)だ。

今話題の「宇都宮方式」とは、どのようなものなのだろうか? 今回は、本書をもとにその一部を紹介しよう。

補聴器を使わなくなる人が多い理由

人間が、音を認識する仕組みを大雑把に言えば、耳穴の奥深くにある蝸牛(かぎゅう)という器官の内部にある有毛細胞が、音を振動として感知。その振動は、電気信号に変換され、聴神経を介して脳に伝わって、はじめて音として解釈される。

有毛細胞は再生せず、高音域に対応する有毛細胞から消耗していく。高音域から聞こえが悪くなるのはこのせいで、加齢とともに聞こえる範囲は狭まっていく。

この状態を、脳の視点から見てみよう。入ってくる音の電気信号が少なくなるにつれ、脳はその状態に慣れてしまう。これを新田医師は「難聴の脳」と呼ぶ。

「難聴の脳」の何が問題かといえば、補聴器で必要な音量の音が聞こえるようにすると、「うるさい」と感じてしまうことだ。それで、うるさく感じないように補聴器を調整すると、今度はきちんと聞き取れないという問題が生じる。

せっかく購入した補聴器を早々に外してしまう人が多いのは、これが原因であるという。

終日装用して「難聴の脳」を改善

「宇都宮方式」では、問診、検査、カウンセリングを経て、補聴器を使った治療を行う。この補聴器は、3か月の間、患者に貸し出される。

この方式が、従来の補聴器療法と決定的に違うのは、初日から「1日中装用し続ける」ことだ。

多くの医療機関では、補聴器の使い始めは1時間程度にとどめ、それも静かな場所で装用する方法を採用している。

新田医師は、その方法では「うまくいかないことが少なくありません」と指摘。その理由を次のように説明している。

静かな環境に慣れた「難聴の脳」は、補聴器で聞き取りにじゅうぶんな音量を入れると、非常にうるさく不快に感じます。
補聴器の装用時間が短いと、「難聴の脳」は、そのうるさい環境に慣れることができず、適応しないのです。
結局、患者さんが不快ばかりを訴えることになります。訴えのとおりに、補聴器に入れる音量を少なく制限していると、いつまでも「難聴の脳」が変わりません。(本書103pより)

「宇都宮方式」が、最初の日から(就寝時と入浴時を除き)1日中装用しっぱなしとするのは、このジレンマを解決するためだ。装用時間が長ければ、「難聴の脳」が、新しい環境に慣れるのも早くなる。

とはいえ、耐え難いうるささを感じることも多いので、初期の段階では、音量は目標値の70%に抑える。

また、「最もつらいのは最初の1週間」と書かれているとおり、しばらくの我慢は必要。その後は、徐々に適応していき、3か月も経てばすっかり慣れるそうだ。

メタボを避け、大きな音は最小限に抑える

新田医師は、難聴の予防についても1章割いている。

そのポイントは2つあって、メタボ対策と騒音対策だという。

加齢性難聴は、加齢に伴い誰でも起きうることだが、さらに進行させる有力因子が動脈硬化。動脈硬化は、内臓脂肪が多くて血糖値が高いといったメタボだと起きやすい。

そこで、メタボにならない生活習慣を励行するのが重要となる。新田医師は、「動物性脂肪を控え、青魚などの魚を積極的にとる」「有酸素運動を行う」など、いくつかの具体的な対策を挙げている。

また、有毛細胞は、長時間にわたり大きな音にさらされると、ダメージを受けやすい。そのため、日常的に大きな音を避けることが大事。

特に最近は、ヘッドホンやイヤホンで大音量の音楽を聴くことによる、「ヘッドホン難聴」「イヤホン難聴」が問題になっている。新田医師は、そうした機器で「長時間、音楽を聴かないように心がける」ようアドバイスする。

* * *

ここでは割愛したが、本書では、難聴と表裏一体の症状である耳鳴りについても豊富な解説・対策が説かれ、聞こえに悩んでいる人に参考となる1冊に仕上がっている。難聴・耳鳴りを改善したいという方には、一読をすすめたい。

【今日の健康に良い1冊】
『改訂版 難聴・耳鳴りの9割はよくなる
脳を鍛えて聞こえをよくする「補聴器リハビリ」』

新田清一著、小川郁監修
定価1540円
世界文化社

文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライターとなる。趣味は神社仏閣・秘境めぐりで、撮った写真をInstagram(https://www.instagram.com/happysuzuki/)に掲載している。

 

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