取材・文/坂口鈴香

写真はイメージです

若年性認知症当事者と家族のためのカフェの代表をしている松坂かおりさん(仮名・45)は、若年性認知症だった母親を亡くしたところだ。看取り期に、胃ろうか経鼻栄養、点滴かの選択を迫られたが、妹弟の気持ちを考えると何もしないという選択はできず、最低限の栄養と水分を点滴で入れてもらうことにしたという。

看取り期の母。妹弟と意見が合わず、点滴で命をつなぐことに葛藤した【2】はこちら

介護中、若年認知症カフェが支えになった

さて、「若年性認知症当事者と家族の会」だ。松坂さんが会の代表になったのは、出産前、母親と3人で暮らしていたときのこと。松坂さんは、市の高齢者担当課を紹介してもらい、若年性認知症の当事者と家族が直面する課題について訴えたのだという。

「若いのに就労支援が受けられない。デイサービスしかないけれど、高齢の利用者ばかりなのでデイサービスには行きたくない。家に居るしかなくなって、症状が進行してしまう。外に出るのに安価な移動手段が必要だ、などと伝えました。すると、市が若年性認知症カフェを運営する人を公募するので、家族としてその会議に来てほしいと依頼されたのです」

すると、会場は提供するので、代表になってくれないかと打診された。地域のNPOや一般市民も参加していたが、誰もやりたがらなかったのだ。松坂さんは悩んだが、「私が今やらないと何も進まないのなら、引き受けるしかない」と決心した。

「見ての通り、団体の代表になるようなタイプではありません。子どものころから、話し合いでも発言したことはないし……」

それでも、若年性認知症家族として悩みを話せる居場所は欲しかった。だから参加者として、認知症カフェには毎回顔を出した。市の認知症を応援するボランティアも協力してくれて、市の担当者も参加し、皆でワイワイやれている。

「会の発足から1年ほどして出産し、しばらく休んだのですが、この間母が不穏になったこともあり、この会が私の心の支えになりました。がんの治療後、私自身も心身が弱っていたので、私にとっても回復する要因になったと思います。ただ母にとっては居場所とはならなかったようです。手芸や工作が嫌で、1、2回参加しただけで続きませんでしたね」

気持ちを理解してくれた妹弟「報われたと思った」

居場所があったせいか、母親を失ってまだ1週間という松坂さんの心は平穏だ。

「看取り期に、『あと10日くらい』と言われて腹が据わったような気がします。母には、長い間お疲れさまという気持ち。感謝しかありません」

そして、松坂さんは意外なことを明かした。

「実は、うちは若年性認知症の家系なんです。祖母、祖母の姉妹、母の姉もそう。記憶しているだけで、皆60歳くらいで発症しています。遺伝子検査してもいいとは思っていますが、お医者さんはそのときになったらわかることだからと」

大伯母や伯母たちを見ていたこともあり、母親の認知症もそう衝撃を受けることなく受け入れることができたのだろう。

そして、なかなか同じ方向を向けなかった妹弟とは――。

妹は、出産後思うところがあったようだ。女手ひとつで3人の子どもを育ててきた母親の苦労を理解して寄り添えるようになったのだろう。

弟は、母親の死後「お姉ちゃんの話は大げさだと思っていたけれど、先を見て、手を打つために行動していたんだとわかった。お母さんが入院してから、少しずつ理解できた」と言ってくれた。

「私のしてきたことが報われたと思いました。弟はまだ30代。わからなかったのも無理はないと思います。スピード感の違いがあって、足並みはそろわなかったけれど、最後にわかり合えてよかったと思います」

そういう松坂さんもまだ40代。子育て真っ最中で、若年性認知症カフェの代表もしている。忙しくないはずがない。「がんばりすぎないでください」と伝えるまでもなく、松坂さんの自然体の笑顔からはそんな心配は無用かなと思った。

取材・文/坂口鈴香
終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終活ライター”。訪問した施設は100か所以上。20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。

 

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