団塊世代が75歳以上になる「2025年問題」が来年に迫った。今、問題となっているのが、中小企業の後継者難だ。調査会社・東京商工リサーチは、2024年7月に「2024年上半期の後継者難による倒産が過去最多の254件だった」と発表。
中小企業庁は「中小企業・小規模事業者廃業の急増により、2025年までの累計で約650万人の雇用、約22兆円のGDPが失われる可能性がある」と分析。全国各地に「事業承継・引継ぎ支援センター」という窓口を設けている。
和明さん(64歳)は「60歳定年で、宮仕えが終わったら、弟が急死。家業の社長になる羽目になった」と語る。和明さんは、大学卒業後、金融関連会社勤務を経て、環境関連のコンサル会社に転職。そこで60歳の定年を迎えた。
【これまでの経緯は前編で】
定年のカウントダウンが始まった日に訃報が入る
和明さんが30歳から勤務していた会社は、60歳の誕生日が定年になる。
「部長として退職し、まとまった退職金も入る。当時、もうコロナ禍だったから、セレモニー的なこともやらないので気楽だと思っていました。今まで定年の社員を見送ってきたけど、あれは嫌なものだよ。女子社員から花束を渡されて笑顔で“ありがとうございました”っていうの。しんみりしていれば辛気臭いと言われ、感極まれば社畜とからかわれる。それに、40〜50代の社員にとって、古参社員は不要人材なんですよ。だって、敬語を使ったり、立てたりしなくちゃいけない存在が組織にいると煙たいもの。僕がそうだったからその気持ちがよくわかる(笑)」
定年まであと4日という夜11時、83歳の父からスマホに連絡が入った。父が電話をかけてくることはない。誰かがコロナになったか、振り込め詐欺などの特殊詐欺の被害に遭ったのではないかと思ったという。
「嫌な予感のまま電話を取ったら、弟が死んだというんです。翌朝、妻と始発の新幹線に飛び乗りました。コロナだったから貸切状態で……あれはすごい風景だった」
すでに葬儀準備が始まっているというので、斎場に直行した。60〜70代の古参社員5人ほどが仕切っており、両親は弟の棺の前で、呆然と座っていた。
「弟は58歳で、死ぬ年齢ではない。病気という話も聞いたことがない。死因を聞いても誰も教えてくれないから、自殺だと思いましたが、そんな性格ではない。専務に何度も聞いて教えてもらったのは、ラブホテルで心筋梗塞を起こして死んだということ。どうも水商売の女性を連れ込んでいたみたいなんですよ」
弟は水商売の女性から“クソ客”と言われる、クレーマーだったという。いつものように弟はクレームをつけて、相手をする女性の交代を命じていた。最初に来た女性が部屋を出て、次の女性がくるまでの20分程度の間に、弟の心臓は止まってしまった。
「もし、女性が居合わせて、名前でも呼んでくれれば助かったかもしれない。でもまあ、この話ひとつでも、弟の行動がひどいことがわかりますよね。斎場の受付をしていた30代の社員同士が“悪いけど、笑っちゃいますね”と軽口を叩いていた。どんな経営をしたら、こんな状態になるんだと」
会社もそうだが、弟の家庭も崩壊していた。弟の妻(55歳)と娘(30歳)は通夜にも葬式にも参列しなかった。2人はあるアイドルの“推し活”をしており、地方でのファンのミーティングを優先し、帰らなかったのだ。弟の息子(25歳)は人とコミュニケーションをとるのが苦手で、デイトレーダーやアフィリエイトで、小遣い程度を稼いでいるという。
「弟は金があるうちは鷹揚で寛大だけれど、金がなくなると暴力を振るったり攻撃したりする。運動部育ちで、ビンタされて“ありがとうございます”と相手に言うような文化の中で育ったからね。通夜が終わった後に、父と古参社員に囲まれて、“継いでくれないか”と言われたときは、“ああ、やっぱり”と思いましたよ。弟の葬式には、数名の銀行の融資担当者が来ていたので、借金があることはわかっていました。僕が継ぐと言わなければ、抵当に入っている家や貸しビルが持っていかれる。江戸時代から続いている“由緒正しき零細企業”を、こんな不祥事でたたむわけにはいかないですし、継ぐと答えました」
【事業を終わらせるための経営者になるつもりが……次のページに続きます】