文/鈴木拓也
ビール本来のうまさが失われている
少なくとも5千年前から愛飲されていたともいわれ、水、お茶に次いで世界で3番目に飲まれている飲料とされているビール。
日本でも、居酒屋で「とりあえずビール」と注文される超定番であることに異論はないだろう。
ところで、お店で出されるビールのほとんどが、本来のうまさが失われていると聞いたら驚くのではないだろうか。
「お店で飲む9割のビールは死んでいる」
こう言うのは、(株)PERFECT BEER代表取締役の藤沼正俊さん。ビアパブやビアガーデンを複数店運営する若手起業家だ。
藤沼さんは、主要ビールメーカーが製造するビール自体はおいしいものだとしている。しかし、飲食店で提供する段になって、ほとんどがそうではなくなっている(死んでいる)と力説する。
さらに、著書『パーフェクトビアの社長が教える ビールを最高においしく飲むためのルール』(春陽堂書店 https://www.shunyodo.co.jp/shopdetail/000000000899/)の冒頭で、藤沼さんは、次のようにも記している。
そうした事実はあまり知られておらず、「これがビールの味なんだ」と誤解している人も多いです。その結果、「自分はビールがあまり好きではない」「どちらかというと苦手」「最初の1杯だけつきあいで飲んでいる」という人も少なくありません。(本書3~4pより)
うまいビールには法則がある
この発言は、ビール党にはちょっとした衝撃だが、明確な理由がある。
藤沼さんは同書のなかで、その理由として、多くの飲食店ではビールグラスの洗浄やビールサーバーのメンテナンスが、しっかりなされていない点を挙げる。
意外に聞こえるが、これができていない場合、「苦味や雑味が強く、ひどい場合には酸っぱいにおいのするビールが提供される」としている。
「そんな簡単な話なの?」と思ったが、多くのお店は、日常の運営に追われてそこが疎かになっているそうだ。また、ビール本来の味が保たれるかどうかの決め手として、鮮度管理や樽のガス圧管理なども挙げる。これが徹底されているかが、うまさの分かれ目になるという。
では、「みんなでビアガーデンに行こう」となったとき、そのあたりを事前に確認する方法はあるのだろうか。
藤沼さんは、グルメサイトの口コミ情報でわかるという。チェックすべきは、ビールの投稿写真。そのなかでも、グラスに注がれているビールの泡に注目する。それが、「見るからにきめが細かく、かつクリーミー」であれば、ひとまず合格。また、飲み終わった状態のグラスも見て、間隔をおいて泡の跡がリング状(エンジェルリングと呼ぶ)に残っているかもポイント。エンジェルリングがあれば、ビールは適温、グラスは清潔、注ぎ方も申し分なしと判断できるそう。
ビールが実は健康にいい理由
本書は、おいしいビールにめぐりあうコツだけでなく、健康との関係についてもページが割かれている。
最近の医学研究は、アルコール飲料に対して風当たりが強い。しかし、ビールについては、実は健康にいいというエビデンスが、幾つも出ているそうだ。
大きなファクターになっているのが、植物由来の成分であり8千種類以上あるというポリフェノール。ビールには、イソフムロンやキサントフモールといったポリフェノールが含まれているが、これらは、(有害な活性酸素を減少させる)抗酸化作用、抗ガン作用、骨粗しょう症の予防に役立つとされている。
さらに、アルツハイマー型認知症の原因と考えられている、アミロイドβという名のタンパク質の蓄積を防ぐ効果もあるほか、糖尿病や肥満の予防、快適な睡眠の促進などさまざまな効用が明らかにされつつある。
もっとも、アルコール飲料であることに変わりはないので飲み過ぎは禁物。特に血圧が気になる人は、1日当たり中瓶(500ml)1本程度にとどめ、週2回ほどの休肝日をもうけることがすすめられている。
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身近すぎるせいか、われわれは案外ビールのことを知らないが、本書は、歴史あるこの飲み物の基礎知識からおすすめの店まで、さまざまな側面を見せてくれる。ビールのおいしい季節が到来した今、一度読まれるといいだろう。
【今日のおいしい1冊】
『パーフェクトビアの社長が教える ビールを最高においしく飲むためのルール』
文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライターとなる。趣味は神社仏閣・秘境めぐりで、撮った写真をInstagram(https://www.instagram.com/happysuzuki/)に掲載している。