編集者A(以下A):『光る君へ』第14回のラストでは、藤原道隆(演・井浦新)が一条天皇(演・柊木陽太)の女御定子(演・高畑充希)を中宮に据えることを画策します。内裏清涼殿に集った公卿らは、藤原実資(演・秋山竜次)が「中宮と皇后が並び立つことは前例がございません」と口火を切った後に、皆々「ありえぬ」と実資の意見に賛同します。
ライターI(以下I):ところが、幼帝の一条天皇が「朕は定子を中宮にする」と強行突破します。
A:藤原実資は、日記『小右記』に「〈来月五日、内大臣の女御を皇后に立て給ふべし〉てへり。驚き奇しむこと、少なからず」(正暦元年九月二十七日条)と定子立后への驚きを記しています。ここには、「父兼家の喪中にそんなことをするのか」という思いも込められています。さらに九月三十日条にも「〈来月五日、其の事有るべし〉と云々。皇后四人の例、往古、聞かざる事なり」と改めて不満を表明します。30日には、道隆の嫡子伊周(演・三浦翔平)が、立后の儀式の進行に関する個所を書写してもらったようです。
I:不満を表明しながらも中関白家からの依頼にはしっかり応じているのが実資らしいですね(笑)。
A:この部分を簡潔にわかりやすく記した人物叢書『藤原道長』(山中裕著/吉川弘文館)の該当個所を引用しましょう。
この立后の儀に関して、藤原実資はその日記に、兼家の喪中の間に道隆が娘の立后を行うことを「驚奇少なからず」と記している(『小右記』九月二十七日条)。さらに先例の立后の儀式に関する日記を実資が道隆の子伊周の求めに応じて書写して与えているが、そこに「皇后四人の例、往古聞かざる事也」と記している(同月三十日条)。※
I:貴族社会の不満をよそに藤原道隆が強引に一条天皇の女御定子を中宮にしたということなのですが、これがどういうことで何がいけないのかよくわからないという人が多かったのではないでしょうか。実は私も半知半解です。
【なぜ「藤原定子の中宮」に難色を示したのか?。次ページに続きます】