『ドリフのバイのバイのバイ』(ザ・ドリフターズ)、『炎のキン肉マン』(アニメ『キン肉マン』主題歌)、『NAI・NAI 16』(シブがき隊)『君たちキウイ・パパイア・マンゴーだね。』(中原めいこ)、『POISON』(布袋寅泰)、『Harvest』(氷室京介)の共通点は何だろうか。正解は、作詞者が森雪之丞さんであることだ。キャリア48年目を迎え、手がけた楽曲は2700曲を超えるという。「今年、70代に突入し、自分に喝を入れるためにも、初の自選詩集『感情の配線』を作りました」とはにかむ森さんに、最前線を走り続けてきたこれまでの道のりについて伺った。
グループサウンズに新しい時代を感じた中学生時代
――作詞家・森雪之丞に眠る創作の種が芽生えたのは小学生の頃だった。
僕の少年時代(1950~60年代)はマンガ全盛期でした。手塚治虫さん(『鉄腕アトム』『リボンの騎士』ほか)、横山光輝さん(『鉄人28号』『魔法使いサリー』ほか)などのマンガ家さんたちが活躍し、彼らが生み出す物語に夢中になりました。
自分でも描いてみようと、授業中に作品めいたものを描き、友達に回していました。詩については、中学生の頃、ノートの片隅に言葉の断片のようなものを書いていましたね。同時に音楽も夢中で聞くように。当時、グループサウンズ(GS)が大ブームだったんです。
――1967(昭和42)年から1969(昭和44)年にかけ、爆発的な人気を誇ったGS。田辺昭知とザ・スパイダース、ジャッキー吉川とブルー・コメッツほか多くのグループがデビュー。ブームが去った後も、かまやつひろしさん、堺正章さん、井上順さん、沢田研二さんなど、多くのアーティストが活躍した。
これまでの大人とは違い、洗練と軽やかさがあり、カッコよさに惹きつけられました。新しい時代の波動をこのときに感じたのかもしれませんね。
それと同時に、当時は学生運動が全盛期でした。「五つの赤い風船」や「ザ・フォーク・クルセダーズ」など、数多くのフォークグループが登場。岡林信康さん、浅川マキさんなど、人間の闇、世間のリアルを歌うアンダーグラウンドフォークソングにも魅了されました。
なかでも最も衝撃を受けたのが、ジャックスの『からっぽの世界』という曲。フルートの音色とともに曲が始まり、聞いていると歌詞に導かれるように、自分が海の底にいるような気持ちになるんですよ。
60年代に日本の歌謡曲は激変しました。それまでは、歌といえば、ネオン輝く夜の酒場が似合う曲が多かったのですが、以降は、深い精神世界を表現する曲も多く世に出てきました。
さらに、ビートルズ、ボブ・ディラン、キンクス、キング・クリムゾンなどのロックに影響を受けます。当時、ライナーノーツ(レコード付帯の解説文)を読み、海外のミュージシャンたちの音楽背景を想像していました。ライナーノーツを書いていたのは、今も活躍している、音楽評論家・立川直樹さん。立川さんも当時20代だったんですよね。
ペンネームを「森雪之丞」にしたのは、1973年のデヴィッド・ボウイ初来日公演以降です。デヴィッドの衣装を舞台上の黒子が引き抜くという、歌舞伎の世界観を想起させる演出があり、これがとても斬新で、ここに未来のROCKを感じた。そこで、歌舞伎を想起させる名前を名乗るようになりました。
【ザ・ドリフターズの作詞を担当、メンバーに会った後、緊張のあまり倒れてしまう……次のページに続きます】