文/鈴木拓也
50歳を迎えた頃、一気に老眼が進んだ。
対策はないかとドラッグストアに行ったら、ブルーベリーのサプリに目が留まった。ルテインなる成分も配合しているという。
「ブルーベリーは視力を改善して、ルテインは眼の老化を防止するんだったかな……」と、何かを読んだ記憶を掘り起こして購入した。
このサプリ、1年ほど摂ったものの効果は一向に感じられず、やめてしまった。
ブルーベリーの目の健康効果は限定的
そもそもブルーベリーは視力改善に効くのだろうか?
実はこれ、「都市伝説」だと説くのは、二本松眼科病院の平松類副院長。平松副院長によれば、ブルーベリーが「目にいい」といわれ始めたのは、第二次世界大戦中のこと。イギリス空軍の戦闘機パイロットが、夜間の空中戦にめっぽう強かったのは、ブルーベリーを食べ続けて夜目が鍛えられたおかげだったという話がある。
ところが、この話自体が根拠のない風説に過ぎず、イギリス軍が喧伝したのは「ビタミンAが豊富なニンジン」が夜目にいいというものであったそう。そして、実はこれも敵国を欺くかく乱作戦の一環であり、本当の強さは戦闘機に装備した夜間レーダーであったというオチがつく。
ただ、ブルーベリーを摂って全く意味がないわけではなく、「眼の疲れの軽減」には、ある程度の効果が期待できるという。ルテインも、黄斑変性の予防にはなるとも。
平松副院長は、著書『眼科医が警告する視力を失わないために今すぐやめるべき39のこと』(SBクリエイティブ)の中で、こうした目の健康に関する世間的な常識にメスを入れ、医学的に正しい知識を網羅している。その一部をちょっと紹介しよう。
1か月以上たった目薬を使ってはいけない
目のトラブル対策に目薬を愛用している人は多いが、本当のところはどうなのだろうか?
本書では、目薬に関するウソ・ホントが語られている。例えば充血止めの目薬。平松副院長は、目が充血したからといって頻繁に使うことはすすめてはいない。
その理由は、目薬で充血は解消されても、原因までは取り除かれないからだ。充血の原因はいくつかあるが、現代人は「ドライアイやアレルギーで充血しているケース」が多いという。その場合は、目薬を差したところで対処療法にしかならず、症状は悪化して深刻な目の疾患に発展するリスクすらあるとする。
また、目薬全般についていえば、「最初に使ってから1か月以上たった目薬を使うのは、ばい菌を目に差しているようなもの」と警告し、次のように解説する。
目薬の容器を押すと、一滴の薬液が落ちてきます。このとき目薬の容器内は一時的に陰圧になります。スポイトを思い浮かべていただけるとわかりやすいかと思いますが、手の圧を緩めると、内側へと吸い込む力が働きます。
つまり、目薬の容器は外から不純物を取り込みやすく、内部で雑菌が繁殖する可能性があるということです。(本書89pより)
なので、平松副院長のアドバイスは、1か月を目途に買い替えること。「まだ残っているのにもったいない」と考えるのは禁物だ。
相性のいい「かかりつけ眼科医」をもつ
目の健康管理に関して平松副院長がすすめるのが、「かかりつけ眼科医」をもつこと。
最近は、かかりつけ医に関する意識が高まっているが、それはもっぱら内科や歯科に限られている。「最後に眼科に行ったのは?」と聞かれて、いつだったか思い出せないという人は少なくないだろう。
しかし、よく考えてみれば、目の不調が深刻な事態になってからのことを考えると、定期的に眼科医に通うというのは理に適っている。
現時点で目にトラブルがない場合でも、「40歳を超えたら1~3年に1回、70歳を超えたら1年に1回」は、眼底カメラ検査を含めた眼科検診を受けるよう、平松副院長は説く。
また、かかりつけ眼科医は、誰でもいいわけではなく「眼科専門医」を選ぶ。通常の眼科医だと、眼科の臨床経験が乏しい可能性がある。一方で、眼科専門医は、眼科科学会発行の免許を持つ、経験豊かなその道のプロだからだ。
また、もう一つの決め手は「行きやすい病院」であること。評判のすこぶるいい有名な医師でも、通うのに電車で何時間もかかるようだと、次第に行くのが億劫になってしまう。また、相性がよくない医師は避ける。話しやすく、ちゃんと向き合ってくれる医師であることは、技量と同じくらい重要な要素だと、平松副院長は説く。
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本書は、「暗いところでものを見ると目が悪くなるのか」といった素朴な疑問から、「目がかすむ」のような、放置したら危ない徴候など、まさに目からウロコな情報が満載。アドバイスを実践して、すぐ効果を体感できるわけではないが、目の健康にいい生活を送りたい方には読んでほしい1冊だ。
【今日の健康に良い1冊】
『眼科医が警告する視力を失わないために今すぐやめるべき39のこと』
文/鈴木拓也 老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は神社仏閣・秘境巡りで、撮った映像をYouTube(Mystical Places in Japan)に掲載している。