ライターI(以下I):豊臣秀吉(演・ムロツヨシ)の息子である秀頼の生母茶々(演・北川景子)は、戦国の悲劇を幾度も体感した稀有の存在です。
編集者A(以下A): 小谷落城で父浅井長政(演・大貫勇輔)を失い、北ノ庄城で母お市の方を失う。本能寺の変で叔父の織田信長(演・岡田准一)が討たれ、かつて小谷城攻めに参加した敵将秀吉の側室に迎えられました。
I:父を滅ぼした秀吉の側室……戦国乱世の倣いとはいえ、その胸中いかばかりだったでしょうか。
A:そのあたりは例によって茶々の心情を記した書き物は一切残っていないので、推測するしかないのですが、その代償として、大坂城の権力を握ることにはなりました。
I:世が世であれば天下人秀頼(演・作間龍斗)の実母として権勢をほしいままにできたかもしれません。ところが時代はそれを許しませんでした。
A:茶々の最期、秀頼の最期というのは、戦国乱世の終焉を厳かに刻印する儀式のような形になるのでしょうか。そう考えると、『どうする家康』の第47回、48回は心して視聴したいですね。
I:はい。お市の方、茶々は戦国の苦難にさらされました。そうしたことを考えると、お市の方と茶々を同一人物が2役で演じるというのは何か必然であるかのような気もしてきます。逆説的には、北川景子さんが2役を演じたということを期に、戦国に散ったふたりの女性の軌跡に改めて思いを馳せてほしいですね。
A:さて、前振りが長くなりましたが、北川景子さんのコメントが寄せられました。まずは、市と茶々のひとり2役を演じることについてです。
市と茶々、どちらも大きな役なので、同じ役者が2役演じると視聴者の皆さんを混乱させてしまうのではないかと思い、初めてお話を頂いた時は消極的ではありました。でも脚本の古沢先生からも「この物語は、市と茶々、2役を通して演じることに大きな意味がある」とご説明いただいて。自分でも色々と考え、お引き受けしようと覚悟を決めてからは、凄く楽しむことが出来ました。
A:今回お市の方と茶々をひとりの俳優に演じてもらうというのは英断でしたし、ここで北川景子さんを選んだというのは慧眼でした。これから出てくるのかどうかはわかりませんが、茶々の甲冑姿も見たいですね。
I:はい。それではお話の続きをどうぞ。
市は比較的正統派な武家の娘という印象で、あまり悩まず演じられましたが、茶々は市の思いを引き継ぎつつも、市とどう変化を付けるのか色々悩みました。扮装やヘアメイクについてもスタッフの方とご相談を重ね、一から作り上げていきました。扮装部の皆さんは大河ドラマ『葵 徳川三代』で小川眞由美さんが演じられていた茶々を意識していると伺っていたので、私も小川さんのような迫力ある茶々を演じられたらと思いながら取り組みました。茶々の撮影はあっという間でした。強烈な登場シーンがあってから、殿下(秀吉)が亡くなり、息子の秀頼が大人になり……出演する度にイベントがある感じだったので、目まぐるしかったです。
A:『葵 徳川三代』で淀殿(茶々)を演じた小川眞由美さんを意識していたということですが、小川さんの淀殿は大河ドラマ歴代「茶々・淀殿」の中でもかなり濃厚なキャストでした。そこを意識していたとは……。
I:お市の方の初登場時は、仮面をかぶって竹柵の中で、次郎三郎と戦うという趣向で、あっと驚く衝撃的な登場の仕方でした。一方の茶々の初登場時といえば、火縄銃を構えての登場で、家康(演・松本潤)に向かって「ダァーーン」と打つマネをしていました。
A:振り返って見ると、最初から仕組まれていたんですね、きっと(笑)。さて、大河ドラマの出演者は適宜NHKの広報から発表されるのですが、茶々はぎりぎりまで発表されませんでした。北川さんはドギマギしていたという心境を語ってくれました。
【北川さんがドギマギしていた茶々の発表。次ページに続きます】