2023年、調査会社・東京商工リサーチは『2022年「ペット・ペット用品小売業」業績調査』を発表。それによると、コロナ禍の新たな生活様式の浸透で、犬や猫などのペット人気が広がったことを示している。2019年の売上高合計は2233億7300万円だったが、2022年は2906億7700万円と1.3倍に伸びた。最終利益合計もコロナ以前と比較し、2.9倍と拡大。
黒字企業が増える一方で、円高や物価高などの影響で、減収率10%超の企業も2割を超えた。売上高の二極化の加速もあり、ピークアウトの可能性もあるという。
「ペットもいいけれど、人間の方が大事だと思うんですけれどね」というのは、朋子さん(64歳)だ。親しく付き合っていた友人・典代さん(64歳)が犬を飼うことで人間が変わってしまったというのだ。
朋子さんも典代さんも10年前に夫をがんで亡くしている。亡き夫を愛し続ける2人の女性は、配偶者をがんで亡くした遺族の会で出会い、友情を深めていった。朋子さんは夫の死去から10年経っても「夫は今も生きていると思う」と語る。典代さんもそうだったが、ペットを飼ったことで関係に異変が起こる。
【これまでの経緯は前編で】
きっかけは、「若い恋人」だった
朋子さんは64歳だが、実年齢よりも見た目は若い。2人の30代の娘から、ファッションや美容のアドバイスを得ていることが大きいという。一方、典代さんは子供がいないため、見た目は朋子さんよりもさらに若い。
「私の周囲の人々は、みんな子供を産んでいるので、子供を産まない人生のことがよくわからなかったんです。典代さんを見ていると、同じ年齢でも圧倒的に若い。生物として細胞がピチピチしているというか、エネルギーが違う。それを娘に言ったら“ママは私たちを産んでくれたでしょ。体の栄養とかそういうものを私たちに分け与えてくれて……ありがとね”って。だから、子供を産んでいない人と若さを比べるのはやめようと」
双方の夫の没後、6年でお互いに還暦を迎えた。そのときに典代さんは「これからひと花咲かせる」と一回り年下のボーイフレンドを持ったという。
「48歳の既婚者の男性を“彼氏だ”と紹介されました。容姿は整っていましたが、軽薄で実がない感じがして、私は好きではなかった。でも、典代さんはのめり込んだんです。“私と彼は魂の双子だ”とか、“たるんだ体を可愛いといってくれる”とか言うんです。友達の色恋の話は聞きたくないし、男が年上の女性を愛するという話が基本的にないとわかっている。夫を見ていて思いましたが、多くの男はやはり若い女が好き。それは生物的に求めるし、男の集団で自慢できるからだと思うんです」
朋子さんの予想通り、すぐに2人は別れた。そして朋子さんと典代さんの友情は再開された。
「典代さんは“やっぱり夫がいいわ”って。そりゃそうでしょうよ。もうこの世にいなくても、30年近く一緒にいたってことは、それなりに縁があったということなのだから。いいところも悪いところも同じように飲み下して、夫婦を続けてきた歳月ほど、強固な愛情はないですよ」
夫が死んでから時間の経過とともに、痛みや悲しみなどの鮮烈な感情の角は丸くなっていく。気づけば「ああ、夫の魂は生きているんだな」と穏やかな感情になっていくという。
「この世の中は、悪い夫婦関係ばかりクローズアップしているけれど、いい夫婦関係の方が多いと感じています。配偶者が亡くなった当時は、半身を引き裂かれるような悲しみがありますが、時間の経過とともに薄れる。“時は薬”とはよく言ったものです」
典代さんと会う頻度も毎週から月1になり、2~3か月に1回になったころに、再び異変がやって来た。典代さんが犬を飼ったのだ。
朋子さんには「ベビちゃんがウチにやってきました。会ってくれる?」とLINEが来た。てっきり、生き別れになった我が子が見つかり、孫が生まれたのかと思ったので、「ウチで逢いましょう」と返事をする。典代さんが来た日、インターフォンのモニターには、犬が写っていたという。
【我が家のリビングに犬を連れてくる不快……次のページに続きます】