個室やリクライニングシートなど設備が充実
「夜行高速バスの車内環境は、ひところとは比べものにならないほど快適になりました」
そう話すのは、バス事情に詳しい加藤佳一さんだ。
【東京~奈良】
完全個室型でホテルをイメージした夜行高速乗り合いバス
「ドリームスリーパー東京・大阪奈良号」
バスタ新宿 23:15発
今回乗車したのは、夜行高速バスの究極型ともいえる全席完全個室の豪華バス「ドリームスリーパー東京・大阪奈良号」である。1台の定員はわずか11名、3列独立シートのバスの定員が30名前後であることからも、1名あたりのスペースの余裕ぶりが分かる。
東京・新宿の高速バスターミナル「バスタ新宿」発は23時15分、大阪駅前を経由して終点のJR奈良駅には翌8時10分に着く。総距離約540km、8時間55分の夜行の旅である。カーペット敷きのバス内は土足禁止なので乗車時に室内履きに履き替え、靴は渡された袋に入れ各自持参する。
「無重力シート」で安眠
室内には幅広の電動リクライニングシートが設備され、座ったままで手の届くところに、リクライニングの調整ボタン、調光スイッチ、BGMのスイッチなどが取り付けられている。100VのAC電源にUSB電源、ネットにつなげる無料のWi-Fiも用意、歯ブラシなどのアメニティ用品も完備(上画像参照)し、ホテルの一室のような環境が整えられている。スライドドアを閉めると、完全にプライベートな空間になる。
NASA(アメリカ航空宇宙局)の理論に着想を得たというリクライニングシートは「ゼログラビティシート」(無重力シート)と呼ばれ、背もたれ、座面、フットレストの角度を好みの位置に調節できる。実際には無重力とはならないが、座面やフットレストを調節することで、体圧が分散して安眠の姿勢を取ることができる。
願わくばもう少し背もたれが倒れるとよいが、制約のある個室スペースで最大限のリクライニング機能を持たせたシートである。夜行高速バスの肝要がシートだとすれば、安眠のための充分な快適性を有している。
目覚めれば、窓の外に大阪のビル群が広がっている。ゆっくり眠れるので、終点まで9時間近くも乗車していたとは思えず、疲労感も少ない。2万円(通常料金)という料金は新幹線利用より5000円程度高くつくが(※)、楽に移動ができ、大阪や奈良で朝から行動できることを考えれば、納得できる料金だといえるだろう。
※東海道新幹線「のぞみ」を利用して東京~大阪間は1万4720円(運賃+指定席特急料金、通常期)。
JR奈良駅 8:10着
取材・文/宇野正樹 撮影/藤田修平 写真提供/関東バス
※この記事は『サライ』本誌2023年8月号より転載しました。