コロナ禍を経て老若男女を問わず写経が見直されている。一文字一文字、お経を書き写すうちに心が少しずつ落ち着いてくる。

『般若心経』の書かれた手本に用紙を重ね、下の文字をなぞって墨書するお写
経の方法は、薬師寺が発祥とされる。

今、静かに注目を集めている「写経」。目まぐるしく変化する社会情勢や職場などの環境、人間関係の移いといった無常の日々の中で、自身を内面から支えてくれるような揺るぎないものを求める人が増えている。

その手立てのひとつとして、選ばれているのが写経である。

写経とは、文字通り、紀元前5世紀頃に仏(釈迦)が啓(ひら)いた教えをまとめた仏教の経典の文字を書写すること。

経典はもともと、釈迦の生まれたインドのサンスクリット語で書かれていたが、1〜2世紀から徐々に中国に伝わり翻訳が始まる。7世紀半ばには玄奘三蔵ら中国の僧が漢訳し、広めたといわれる。

経典は写経で広まった

それ以前、古代の日本にも、仏教とともに経典が伝えられた。最古の聖徳太子伝記『上宮聖徳法王帝説』などに記される宣化天皇3年(538)とする説や、日本最古の史書のひとつ『日本書紀』が伝える欽明(きんめい)天皇13年(552)とする説があるが、いずれにしても、日本に仏教が伝来したのは6世紀とされている。『日本書紀』によると、日本における写経のはじまりは、天武天皇2年(673)に飛鳥(現・奈良県明日香村)に書生を集め、仏典を集約した「一切経」( 大蔵経)を書写させたこととされる。印刷などの技術のなかった時代、経典を広めるためには文字を一字一字写すほかなかった。

その後、仏教の興隆とともに、経典を量産する必要性が増え、国家事業として写経が行なわれるようになった。奈良時代に聖武天皇が全国に国分寺 ・国分尼寺を建立させ、大量の経典が必要になったことも、写経が盛んに行なわれた背景にあるといわれている。

宝亀元年(770)に制作された「百万塔陀羅尼経」は、開版年代が判明している世界最古の現存する印刷物として知られるが、こうした印刷による経典はまだ主流ではなく、人の手で墨書する写経が一般的な経典づくりの方法であった。

個人の心のより所

262文字の『般若心経』をなぞる薬師寺のお写経。最後に願いごとや住所、氏名、年齢、日付を書き、仏前に納める。

平安時代以降、神仏への祈りは国家事業から、極楽浄土への生まれ変わりなどを願う個人的なものへと変化していく。それと歩調を合わせるように、写経も個人的な願いを込めて行なわれるようになっていった。写経をすることにより、功徳が得られると考えられるようになったためだ。

仏教の布教以上に、個人的な修行の一環としての意味合いが濃くなってきた写経には、修行道場で1字を書くごとに3回拝礼をする一字三礼の修行の作法もあったという。

今日では写経の場を提供する寺院は多いが、一般的に行なわれている写経の作法は、奈良の薬師寺(創建680年)が発祥という。薬師寺のお写経道場は毎日開放され、参拝とともに立ち寄ってお写経をすることができる。

現在、写経は、心の安らぎを得るために行なわれることが多いようだ。仏の教え、漢字が持つ意味などを追求しながら書写するのもよし、祈りを込めて認(したた)めるのもよし。写経に求めるものは、人それぞれだ。学びはもちろん、心の安らぎを得られるのであれば、それこそまさに、仏の教えとするところなのかもしれない。

東京・五反田にある薬師寺東京別院では、日中はもちろん、折に触れて夜間にお写経道場を開放する「夜のお写経」も行なっており、より多くの人々にお写経の機会を提供している。まずは気軽に始めてみるのがいいだろう。

薬師寺東京別院のお写経道場で行なわれている「夜のお写経」。仕事帰りなどに立ち寄り、仏前で気軽にお写経をすることができる。
お写経道場に入る際に跨ぐ香炉「香象」。香の煙を体に浴びることで、体全体を清めてからお写経を始める。
お写経の間に修行の服装として首からかける輪袈裟(右)と、口に含み口中を清める丁子(左)。
薬師寺に納められたお写経は、お写経の納経供養料で復興された白鳳伽藍の諸堂の納経蔵で永代供養される。

薬師寺東京別院

東京都品川区東五反田5-15-17
電話:03・3443・1620
開場:9時30分~17時 (原則第1・第3金曜18時~夜のお写経)
無休
納経供養料2000円(般若心経)
JR山手線、都営浅草線五反田駅より徒歩約7分

法相宗大本山 薬師寺

奈良市西ノ京町457
電話:0742・33・6001
開場:8時30分~17時 
年中無休
納経供養料2000円(般若心経)
近鉄京都駅・近鉄大阪難波駅から大和西大寺経由、近鉄西ノ京駅より徒歩約1分

とじ込み付録解説

薬師寺お写経般若心経のこころ」を書写

まずは、気軽に始められる『サライ』8月号のとじ込み付録「サライ謹製 薬師寺お写経 般若心経のこころ」をご活用いただきたい。

薬師寺では毛筆でなくとも、筆ペンなど使いやすい筆記具でお写経をしてもよいとしている。作法などにとらわれず、思い立ったら気軽に始めてみることこそ大切なのだ。

経典を書写する写経。写経することで功徳が増すともいわれる。一字一字に集中し、ひたすらに文字をなぞるだけでも雑念が払われ、心が休まる。安らぎを求めて寺院の写経道場を訪れる人が増加しているのも頷ける。

ここでは、本家ともいえる薬師寺での作法を紹介したい。薬師寺では経典と書写する人への敬意をこめて「お写経」と称している。「作法にとらわれず、気軽に始めて構いません。始めることが第一歩」と、薬師寺は呼びかける。

サライ8月号のとじ込み付録は、薬師寺のご厚意による「般若心経のこころ」のお手本である。難解な『般若心経』を平易な分かりやすい言葉で繙(ひもと)きながら、その神髄を伝える一編である。

本格的な『般若心経』によるお写経は敷居が高いと感じる人も、このとじ込み付録を使用することで、気軽にお写経の体験ができるだろう。

一文字ずつ心を込めて丁寧になぞる。書き進むに従い、用紙を動かしても構わない。自然な姿勢を意識する。お写経は書道ではないので、自分の癖を出さずに書くことを心がける。

堅苦しく考える必要はないが、次のような準備と手順で始めることを勧めたい。

(1)机の上を清めたり、身支度を整えるなどして環境を整え、切り取った「般若心経のこころ」と筆記具を机に並べる。
(2)手を洗い口を濯(すす)いで身を清める。
(3)机の前に座り、姿勢を正し、呼吸を整える。正座でも椅子でもよい。
(4)鉛筆(やわらかめの3Bや4Bを推奨)や筆ペンで、一文字一文字、丁寧になぞり書きをする。むろん毛筆でもよい。
(5)書き上げたら、粗末にせず箱などに入れて保管することが好ましい。仏壇があれば供えてもよい。

また、書き上げたとじ込み付録「般若心経のこころ」は、奈良の薬師寺および東京別院に持参すると、それぞれ御朱印を押印してもらえる(2箇所に持参すればひとつずつ押印される。下の画像はその見本)。

付録をなぞり、薬師寺か東京別院へ持参すると薬師寺印(左下)が頂ける。薬師寺で印を頂いた方は東京別院へ、東京別院で頂いた方は薬師寺へ持参すると、さらに薬壺印(左上)が頂ける。いずれも志納料300円。

お写経をより身近に

薬師寺は、お写経する上で覚えておいてほしいこととして、『般若心経』の教えでもある「かたよらない」「こだわらない」「とらわれない」の3点を挙げている。

好きな時間に書くとよい。無理に無心になろうとする必要もなく、むしろイライラしているときが好機とされる。「こうでなくてはならない」と決めつけないことが大切だ。「般若心経のこころ」をきっかけに、薬師寺や東京別院で本格的なお写経をしてみてはいかがだろうか。今号の付録をささやかなきっかけとし、心を調(ととの)えるよき習慣となることを期待したい。

●押印は薬師寺と東京別院の朱印所で令和6年1月15日まで。

※この記事は『サライ』本誌2023年8月号より転載しました。(取材・文/平松温子 撮影/安田仁志)

『サライ』8月号の特別付録はサライ謹製「薬師寺お写経「般若心経のこころ」」

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