テレビドラマや映画などで長年活躍し続けている俳優の役所広司さん。先日フランスで開催された第76回カンヌ国際映画祭では、ヴィム・ヴェンダース監督の作品『PERFECT DAYS』の演技で最優秀男優賞を受賞しました。世界からますます熱い視線を注がれる中、役所さんは6月にNetflixで世界独占配信される『THE DAYS』では主演を務め、さらにキャリアの幅を広げています。そんな役所さんに、『THE DAYS』への出演を決めた経緯や役作りに対する思いについて伺いました。
プロデューサーの熱い思いが迷いを断ち切った。「これは自分が参加すべき作品」
――「THE DAYS」は2011年当時の記憶が蘇ってくるような生々しいドラマです。福島第一原発事故を事実に忠実に描いたこのドラマに出演を決めた経緯を教えてください。
実際にあったことですし、あの時は多くの人が東京にも住めなくなるかもしれないという経験をした大事故でした。津波もありましたし、大変な思いをして、今もまだ苦しんでいます。そんな事故をドラマというエンターテインメントにして大丈夫なのだろうかと、最初はやはり、すごく迷いました。ドラマですから、どうしても演出が入ってくるし、時期的にもまだ早いのではとも思いました。プロデューサー兼脚本家の増本(淳)さんから、いろいろ話を聞かせてもらって、最終的には増本さんの「あの日、あそこで、何が起きて、どうやって1週間を過ごしたかということをとにかく事実をもとに伝えたい」、なおかつ、「その後、廃炉に向けて、原発はどうなっていくんだろうということもできれば描いていきたい」という熱い思いを聞き、「これは参加すべきだ、参加したい」と思いました。
実際の現場の肉声を聴いて役柄のイメージを膨らませ、役を形に
――役所さんは今回、最前線で指揮をとった福島第一原発所長の吉田昌郎さんをモデルとした人物を演じています。吉田所長を実際に演じてみて発見はありましたか。
正確には吉田さんの全ては表現できないんですけれども、脚本の要所要所に自分の想像ですが、「ああ、こうだったんじゃないかな」と思うことはありましたね。あの極限状態でリーダーとして、おそらく、こういう心理状態で判断をして来たのかなと考えました。自分は免震重要棟という、安全で電気もついている場所にいて、危ないことは所員と部下たちに全部させている後ろめたさ。その中で7日間、過ごされたのかなと思います。
学生時代からスポーツマンでリーダーシップを発揮し、親分肌で豪放磊落な方だったと思います。風貌は結構、恰幅が良くて、ラグビー選手みたいな人ですから、見た目はもう全然、真似しても無理だと思いました。なので、それに関してはほとんど気にしていません(笑)。実際の映像は記者会見の時ぐらいで、あとはほとんど音声を頼りにしました。インターネットで、免震重要棟で指示を出している音声などをたくさん聞きました。そこから吉田所長の心理状態、現場の状況などを想像しながら、なんとなく役に反映させていったと思います。
原子炉への海水注入について、「水を入れるしかない。ただ、愚直に水を入れただけだ」と吉田所長は言っていますが、僕はある意味、日本という国を救った人だと思っています。もちろん、吉田所長の判断に反対の人もいるかもしれません。でも僕は、あの場に吉田所長がいたことは日本にとって良かったと思っています。
忘れちゃいけないことを表現するのが、僕たち俳優のやるべき仕事
――役所さんはこれまでも歴史上の人物を始め、実在の犯罪者をモデルにしたキャラクターなど、さまざまな人物を演じていますが、実際にみんなが知っている人物を演じる際はどのようなことを心がけているのでしょうか。
それはもう、自分が感じたものをやるしかないですよね。歴史上の人物や実際にあった事件、あるいは戦争のものをやる時というのは、そこまで正確には全てを表現できないとは思います。けれども、その実際にあったこと、実在の人物を演じることによって、思い出してもらえばいいと思っています。「ああ、こんなことがあったんだな。ちょっと待てよ。それで、その後はどうなったんだ?」という風に知ることのきっかけになってくれればいいんです。やっぱり、歴史の中には忘れなければいけないことと、忘れちゃいけないことがあると思っています。忘れちゃいけないことを表現するのが僕たちのやるべき仕事だと思いますから。「何かの役に立っているかもしれない」というのが、この仕事をやっているモチベーションの一つなのかもしれません。
後編では、真摯に仕事と向き合い続ける役所広司さんに、キャリアを含めたこれからのことについて伺います。
●役所広司(やくしょこうじ)
1956 年1⽉1⽇、⻑崎県出⾝。95年に『KAMIKAZE TAXI』で毎⽇映画コンクール男優主演賞を受賞。96年、『Shall we ダンス?』、『眠る男』、『シャブ極道』で国内主演男優賞を独占。東京国際映画祭主演男優賞を受賞した『CURE キュア』(97)、カンヌ国際映画祭パルムドールを受賞した『うなぎ』(97)など、国際映画祭への出品作も多数。12年、紫綬褒章を受章。 近年の出演作『孤狼の⾎』(18)では、⾃⾝3度⽬となる⽇本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞、19年第13回アジア・フィルム・アワードでは最優秀主演男優賞と特別賞 Excellence in Asian Cinema Award をダブル受賞。最新作『銀河鉄道の⽗』が公開中。また『VIVANT(ヴィヴァン)』(TBS、23年7⽉⽇曜劇場)にも出演予定。ヴィム・ヴェンダース監督の作品『PERFECT DAYS』では主演を務め、第76回カンヌ映画祭で最優秀男優賞を受賞した。
●役所広司さん主演作
『THE DAYS』
『THE DAYS』は6月1日(木)よりNetflixにて世界独占配信
Netflix作品ページ:https://www.netflix.com/title/81233755
ワーナー・ブラザース公式サイト:https://warnerbros.co.jp/tv/thedays/
企画・脚本・プロデュース:増本 淳
監督:西浦正記 中田秀夫
原案:門田隆将「死の淵を見た男―吉田昌郎と福島第一原発」(角川文庫刊)
出演:役所広司、竹野内 豊、小日向文世、小林 薫、音尾琢真、光石研、遠藤憲一、石田ゆり子
取材・文/高山亜紀 撮影/小倉雄一郎(小学館) HAIR&MAKE/勇見勝彦(THYMON Inc.) スタイリスト/安野ともこ
【衣装】スーツ/GIORGIO ARMANI(ジョルジオ アルマーニ)
シャツ/EMPORIO ARMANI(エンポリオ アルマーニ)
ネクタイ、チーフ、ベルト、シューズ/以上全て スタイリスト私物
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